かつて628の村が焼き払われていたということ『炎628』
モスクワの西、白ロシアと呼ばれる地域の628カ所の村がドイツ軍によって焼き払われたという事実を映画化。兵隊に憧れる少年の視点で物語が進んでいく。
冒頭、一人の老人が「どこで遊んでるガキどもでてこい!」と騒ぎ立て、それと平行して子供が散文詩のような語り口調で現れる。老人は去るが、少年は今しがた去った老人のモノマネをカメラに向かって延々にやり続ける。
やがて静寂が少年二人を包む。少年は砂浜を掘り続け、地中から銃を引きずり出した。遠くの方から聞こえる轟音を聞き、少年二人は隠れるが、一人がその姿を見てからかう、そしてその様子を偵察機が空から見ている。そして少年は空を見つめる。ロングショットでカメラは少年を捉え続け、そこにタイトルが映し出される……
――――この作品は冒頭から映画のリズムを受け手に印象付けることに成功している。長回しの手持ちによってグラグラ揺れ続ける映像が基本であり、カメラはドキュメンタリーの様に人間を真後ろから追いかけ、観ている観客を否が応でも戦争の舞台に引き込んでいく。手持ちカメラだけでなく、もちろん一枚絵の映像美としてもかなり計算されており、幻想的な写真の様に構図が決まってるシーンも多々あるのが特徴。
さらに印象に残るのは目の映し方である。クローズアップを多用しているのだが、表情全体というよりも目そのものを捉えており、「目は口ほどにものを言う」なんて言葉があるが、それをそのまんま映像で表しているかのようだ。ラストにもそれは活きている。
秀逸なのは映像だけではない、音も重要な要素を秘めている。静寂な森を包む鳥の声、それを打ち破る様な強烈な爆撃音、頭を貫くノイズ、生理的に嫌な虫の羽音など、事細かに登場する音の使い方も抜群だ。セリフが少ない分、音と映像で見せ切っているのがとにかく素晴らしい。
さて、この作品、有名なのは虐殺シーンからラストに向けての展開である。教会に女子供を押し込んで、そこに手榴弾を投げ入れ、銃を乱射した後に火を放つという強烈な演出をしている。ここだけでも度肝抜かれるわけで、おいおい、そんな見せ場をここで言うんじゃないよと思うだろうが、実はここは通過点でしかなく、その後の展開がさらに衝撃的なのである。抽象的に書くが、ラスト付近は戦争によって倫理観が崩壊していく様と普遍的に人間が持ってる暴力性とは何か?を突きつけられ、一概に何が正しくて、何が悪いのか?ということに答えを出せないような終わり方なのだ。
さらに、ラストの逆再生シーンは『2001年宇宙の旅』での猿人が骨を投げると衛星になってるシーンにとても良く似ている。それの逆バージョンと言ってもいいだろう。『映画の見方が分かる本』によると、本来はボーマンがワープゲートに突入し、地球が出来る過程を見せられるというシーンで、冒頭の猿人の件が出て来る予定だったという。つまりそう言った意味でもこのラストは『2001年』と通ずるものがある。
というわけで、ドイツ軍が村を焼き払ったという事実から第三者的な目線で戦争を捉えた強力な反戦映画であり、ある意味でペキンパーの『わらの犬』とも共通している作品なので、見終わったあとグッタリするだろうが、おすすめしたい、こないだのカナザワ映画祭でも公開されたというが、これをタイトなスケジュールで見るというのはかなりキツいだろうなぁ……あういぇ。
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