感染のスピードと同じ早さ『コンテイジョン』

コンテイジョン』鑑賞。

ハリウッドにおいて、ティム・バートンと並び、作家性と娯楽性を兼ね備え、特異なポジションについているソダーバーグ監督最新作。原因不明の感染症が世界中を襲うというシンプルなプロットの作品。

新種の細菌による感染症が猛スピードで全世界を襲い、その感染が広がっていく様を、たくさんのキャラクターの視点から描き、それが感染の時系列と繋がっていくという巧みな編集によって映画は構成されている。感染の原因になった女とその夫、そして専門家、医者、ワクチンを作る男、さらにそのワクチンを得るために関係者を誘拐する男などなどキャラクターは多種多様であり、舞台も全世界を縦横無尽に駆け回る。豪華スターを共演させることで、少ししか写らないようなキャラクターにもインパクトを持たせ、ただの顔見せでないことをアピールするあたりもさすがソダーバーグという感じでぬかりない。実際、とてつもない人数が出ているにも関わらず、こいつ誰だっけ?という混乱は起きず、むしろその役者の演技が全編の見せ場になっている。

というのも、この作品。起きていることのわりに、かなり地味な内容であり、基本的には役者たちがわめいたり、どなってり、悲しんだり、怒ったりしているだけである。それなのにも関わらず緊張感があり、最後まで目が離せないのは、役者たちの演技がすべてパーフェクトだったことに他ならない。ぼく自身役者の演技というのは映画を観ることにおいて趣をまったくおいてないので、誰の演技がどうしたというのはまったく分からないのだけれど、この作品で初めて、あ、マット・デイモンって演技うまいんだなと思ったり、グウィネス・パルトローってこんな演技が出来るんだ!?と思ったくらいで、今更そんなことを大スターたちに感じたというのはソダーバーグマジックが見事に効いているということだ。

映画自体は役者がわめいてるだけでシンプルであるが、これだけの人数と数々の舞台、そして膨大なセリフに設定と情報はかなり錯綜する。こうやってツラツラ書いている時点で、3時間くらい必要なんじゃないの?と思いがちだが、実際この作品のランタイムは105分とかなり短めである。つまりそれほどまでにタイトな編集であり、特に細菌が広がっていく前半のスピード感たるやハンパじゃない。それはまるで細菌の感染の早さに合わせたかのようである。カットもポンポン飛び、人が苦しんで倒れてるだけなのに、印象的なカット*1を混ぜることで、異様な緊張感とカタルシスをもたらすことに成功している。

ただ、中盤はソダーバーグらしく、人間ドラマを妙な角度から不安定なカメラでじっくり捉えるという手法を使っているので、前半のスピード感に比べると、リズムが崩される可能性もある。しかし、それをすぎるとまたスピードがアップし、世界が破滅に向っていく様子をキッチリ描いているので、登場人物同様、観ている側も何が起きているのか良く分からないまま、あれよあれよと、ラストまで向かうという、ある意味で観客巻き込み型のサスペンスの体裁も整っている。ゆったり知らない間に世界が崩壊していく『回路』とは違い、こちらはあっという間に世界が崩壊に向かっているというのが興味深いところ。日本とアメリカでの表現の違いみたいなものも感じた。

というわけで、どこかで見た設定ながらもソダーバーグらしさがふんだんに出たので、ソダーバーグファンは必見といったところだろう。『トラフィック』をもっとキッチリ造型させた感じといえばいいだろうか。ラストも気がきいてて納得の終わり方でした。あういぇ。

*1:過度なクローズアップやコミック的な状況説明ショット