ふわふわした時間が流れる放課後のティータイム『けいおん!』

けいおん!』第一期鑑賞。社会現象とはまでは言わないが、「けいおん現象」なるものを巻き起こしてる大ヒット作。

高校入学と同時に楽器を弾けない平沢唯が「軽い音楽でカスタネットでも叩ければいいや」という勘違いから軽音楽部に入ってしまう。部には常にハイテンションのムードメーカーでドラム担当の田井中律、クールでありながらとても繊細で恥ずかしがり屋のベース担当、秋山澪、ビックリするほどお金持ちでキーボード担当の琴吹紬がいた。そんな彼女たちの学園生活を淡々と描いていく。

「女子高生たちの音楽にかける青春!」なるものはいっさいなく、基本的には放課後の部室にて延々お茶を飲みながらおしゃべりを続けるという日常生活を捉えた描写が中心。劇中、彼女たちが演奏するオリジナル曲のタイトルが「ふわふわ時間(タイム)」だったり「放課後ティータイム」というバンド名が象徴するように、ずばり「ふわふわした時間が流れる放課後のティータイム」が一話、30分間続いていく。

周りに熱狂的なファンが多いわりにぼくにおすすめしてくれる人は皆無であり*1、それでも「どういう作品?」と訪ねると「『BECK』で『よつばと!』をやる感じ」と大概の人に言われていたが、どちらかというと近いのはフリーターの三人が深夜のファミレスでダラダラと中身のない会話を繰り広げるだけの『THE3名様』だと思う。それに『アフロ田中』の放課後感とある程度の場面転換を加え、「グータンヌーボ」特有のガールズトークで味付けしたものと言えば分かりやすいだろうか。あまり練習のシーンがないわりにライブシーンが良いというのは『リンダ リンダ リンダ』にも似ているだろう。

ストーリー上、男子はおろか、同級生もあまり登場せず、彼女たちに立ちはだかる壁や障害なども一切ない。基本的には「他のグループには共有出来ない価値観をひとつのコミュニティで無限ループのごとく転がし続ける」という女子会のどーでもよさを極限まで純化し、ひとつの作品に昇華したものと言える。そういった意味で『セックス・アンド・ザ・シティ』や『めがね』、『深夜食堂』などに連なる系譜であり、これらが好きであれば自信を持っておすすめ出来る。

まぁ、とにかくこの作品、軽音楽部を舞台にしているわりにキャラクターたちはまるで練習をしない。基本的には練習しよう!と言いながらも、練習までダラダラとしゃべり続けるところが延々写される。勉強にしても同じで、やはり勉強するまでダラダラとした時間が流れ、小一時間勉強したと思ったら、スイーツを食べ、それで一話が終わってしまうなんてこともある。笑いの要素も多く、細かいボケにツッコんでる様子も写されるが、その笑いも「見よう見まねでツッコミをしているだけの女子ノリ」がメインであり、良い意味ですべり散らしていて、その「ファクション内だけのリアリティ」にノレるかノレないかが評価の別れ目といえよう。これほどまでに人を選ぶ作品もそうないし、好き/嫌いだけで作品が語られるのも珍しいと思う。

なぜ「好き/嫌い」だけで語られてしまうかというと、この作品、出来が悪いというわけではないからだ。むしろ出来はかなり良い。

まずこれ!というストーリーがないぶん、細部が異常に凝っている。軽音部の練習はほとんど描かれないと書いたが、楽器に触れるシーンはとことん作り込んであり、ギターの質感から光沢、音、弦の揺れまでも忠実に再現。『コクリコ坂から』を観た時にキャラクターの表情がない、ロボットのようだと書いたが、『けいおん!』は真逆でキャラクターの表情の表現が特化しており、むしろそのキャラクターにあわせてエピソードを作ってるんじゃないかと思うほど。その心情を表すために頻繁にリアクションもデフォルメされる。映像はソフトフォーカスをメインとしたファンタジー感があり、防犯カメラから写したようなみょーちくりんな構図が隠し味として効いている。

パンクをやりながら音楽性もライブシーンも間違いだらけだった『NANA』や、飛び抜けて歌がうまいという主人公の声をあえて無音にしてしまった『BECK』に比べると楽曲にもこだわりを感じ。ちゃんと女子高生がギリギリ演奏出来るであろうアレンジと少ないコード進行で曲が構成されていて、歌詞もバカっぽいという作品内に出て来る設定を使っており、とにかくぬかりない。関連作であるサントラや楽器が売れるというのも納得である。

しいて言えば、主人公が楽器も弾いたことがないキャラクターのわりにギターがうますぎることが引っかかるくらいで、後は「純化された放課後感」だけに特化していると思えば楽しめる作品。ブームの頂点として映画化が決定し、間もなく公開されるが、『THE3名様』にノレて『グータンヌーボ』を見ててもイライラしない人のみおすすめしたい。あういぇ。

日経 エンタテインメント ! 2011年 12月号 [雑誌]

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*1:見て納得した