最新式のクラシック『アジョシ』

『アジョシ』をレンタルDVDで鑑賞。

ツイッターやらなんやらで「韓国版『レオン』だ」というのをチラホラ見かけ、さらにウォンビンが出てるってことであまり食指が伸びなかった。いや別に『レオン』は大好きなのだけれど、今更の感があったし、この手のハリウッド焼き直し系韓国映画には『シュリ』って作品もあって、あれが観てもさほど人生揺さぶるような作品ではなかったために、まぁ60点くらいなんでしょと思って結局劇場公開はスルーしてしまった。

ところがこれが大傑作!!!

あらすじは超がつくほどシンプル。ウォンビン演じる“おじさん”の隣の家に住んでる女の子のお母さんが、とある組織から麻薬を盗み出してしまったことで、その“おじさん”が事件に巻き込まれていくというもの――――いったい誰が韓国版『レオン』なんて言い出したのだろうか、まったく違うじゃないか!!

作品はアクション映画にカテゴライズされるだろうが、基本的には巻きこまれ型の物語であり、さらに“おじさん”の正体が謎になっていることで、観客に二つのサスペンドを用意する。王道かつウェットな展開に歯ごたえのある韓国映画ばかり観ていた人にとっては肩すかしを喰らうかもしれないが、韓国映画というのは常に進化し続けてるというのを分からせるために、あえてテンプレを使ったのだろう。

そのせいか、すべての演出がすこぶる新しい。『アジョシ』は骨太かつ古典的な物語の中に斬新な見せ方と斬新な演出を組み込むことにより「最新式のクラシック映画」という不思議なジャンルを生むことになった。まさにエポックメイクな作品と言える。

特にそれはアクション演出において顕著であり、あれだけ斬新であったスローアンドクイックのモーション感覚によるカンフーに頼らず、殺人術を取り入れた高速のアクションという真逆の方法を取る。さらに長回しで窓から飛び降りるのを後ろから追いかけて撮ったり、手持ちでグラグラ揺れながらもしっかり主人公を捉えてるカメラなど、サプライズ的な撮影技術を要所要所でおさえ、スパイス的な効果をもたらしている。

だからと言って映画はそれに逃げていない。ドラマ部分の演出は少し陳腐かと思うほど丁寧に作られており、アクの強いキャラクターを隅から隅まで描きつつ、それらがごった煮になっていないところに監督の手腕が光る。決闘までの「間」はどこかレオーネ風であり、走るウォンビンを捉えたカットは松田優作のアクション映画風でもあり、『ボーン・アイデンティティ』を下敷きにしながらもどこか古き良き日本映画の風格が漂っている。

それはきっとウォンビンのスターとしてのオーラだろう。恐ろしいほど童顔で、明らかに“おじさん”ではない彼を見て、最初は完全にミスキャストじゃないかと思ったのだが、それを軽々跳ね飛ばす演技力とオーラにもうノックダウン。ウォンビンぺろぺろといった具合で、ぼくは彼に若かりし頃の高倉健を見た。本来はソン・ガンホを主演にする予定だったらしいのだが、もう見終わる頃にはウォンビンしか考えられなくなっていて、すぐに風呂場に行ってバリカンで同じ髪型に刈り込みましたよ!マジで!

というわけで、ホントのホントに思わぬ伏兵という感じで度肝抜かれた。同じように偏見でスルーしているとしたら観ることをおすすめしたい。これが興行収入No.1ってどんだけ観客のレベル高いんだよ……うらやましいな……健全だな……あういぇ。

アジョシ スペシャル・エディション(2枚組) [Blu-ray]

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