傑作!逆にこのクソッタレな邦題にダマされろ!『小悪魔はなぜモテる?!』

小悪魔はなぜモテる?!』こと『Easy A』をレンタルDVDにて鑑賞。

初めて『JUNO』という作品を観たとき、アメリカ映画の懐の深さみたいなものに驚いた。高校生の女の子が妊娠してしまったという話なのだが、底抜けに明るいトーンで描かれていたからである。

良い悪いは別にして、もしおなじ題材を日本であつかうと『14歳の母』や『桜からの手紙』のような辛気くさい話になってしまうのは明白だ*1。実の親からは応援されるどころか「なんてことだ!」と怒号が飛び、それに反発して「ワタシ産む!ひとりで育ててみせる!」なんて言おうもんならビンタを喰らったあとに即「出てけ!」と勘当。公園のブランコかなんかで自分の主張を端から理解してくれるひとは誰ひとりいないなんて悩みながらも後日、保険の先生か優しい女医的な理解者があらわれ、その先生の言葉や説得によって母親がまず理解をしめし、そこから父親も理解しはじめ……というのがこの手のドラマのパターンだといえる。

「出来ちゃった結婚」にある種の嫌悪感*2を抱く人がまだまだ多い国民性みたいなものも反映されているんだろうが、それを“ショットガン・ウエディング”と言ってしまうあたり、アメリカとの考え方の違いみたいなものが伺える。もちろん日本同様、保守的なところもあったり、差別的なところも強いかもしれないが、『JUNO』のような作品は日本では絶対に生まれないということだけは言い切れる。

前フリが長くなったが『Easy A』も『JUNO』とまったく同じトーンの作品であった。

主人公は勉強が出来て、それなりに賢い地味な女の子。彼女は処女であったが、AKBの“Virgin Love”を地でいくような親友のパーティーに誘われ、そのパーティーを断る口実としてデートする予定なのだとウソをつく。結局週明けに「デートはどうだったの?」としつこく聞かれてしまったので、半分見栄をはる形で「セックスをした」とウソにウソを重ねてしまうのだが、この会話を学校一のキリスト教福音派の女子に聞かれてしまったからさぁ大変。彼女のウソは尾ひれがつきまくった形で学校中に流れ、またたく間に「ヤリマン」だという噂が広まってしまう……

学校内での噂は広まりやすいというのを示唆するように長回しを使ったり、それをそのまんま逆説的にラストに持って来るなど映像そのものが比喩になっているだけでなく、自身の真実をカメラに向かって吐露するというメタ的な視点でさえもネットのストリーミング放送という映画の中での出来事として違和感なく滑り込ませている。これは主にゴダールが得意としていた手法であるが、規制の映画に対する反発から生まれたものを、なんなく普遍的な映画の普遍的な手法にすりかえてるあたり監督の手腕と映画愛が伺える。ジョン・ヒューズが引用されていたが、堂々とその名前を劇中で出してるように、それは表向きであり、実際この作品は『緋文字』を主題にした非常に古典的な物語である*3

というより、もっと言えばこれはキリスト/聖書的な話なんじゃないかと。

無実の罪がそのまんま世間に広まりながらも、それとは別に真実を知る者は彼女に救いを求め、実際に彼女によって救われる者が多数現れる。もちろん彼女はキリストなんかじゃなく、どちらかというと神を信じていないので、そのやりとりに金銭的なものも発生するが、実際彼女に「現金」を払った者は一人もおらず、ある意味で「彼らを助けたい」という気持ちからやってることである。そんな彼女を糾弾するのがキリスト教福音派であるというのも皮肉に満ちてておもしろいのだが、実際この作品で描かれているのは人間の裏表であり、キリスト教に身を置きながら、付き合ってる彼女をダマして、他の人とセックスをして性病をうつされるのと、処女なのにヤリマンとウソを突き通して、それを利用しギフトカードをもらって人を助けるのはどちらが罪深いのか?という選択を観る者に迫る。

差別や偏見、宗教、セックス観みたいなものが散りばめられているわりに映画は底抜けに明るく、むしろ笑いであふれている。エマ・ストーン演じる主人公が「私は偏見なんて気にしないわ!」という思想の持ち主であるというところも加味されているが、実際、その役柄と本人のキャラクターがこの映画を引っ張って行ってるということは事実であろう。そういった事柄を笑い飛ばしてしまえ!みたいなノリが全編を覆い、脇役にまで気を配った演出も非常に小気味良い。

というわけで、こういう作品が大ヒットすること自体、アメリカ映画の懐が深い証拠であるが、それに反して日本では劇場未公開のDVDスルーなのだから、同じような題材で映画が作られたら、冒頭に書いたように辛気くさい話になってしまうんだろうなぁ……まぁ、こればっかりは国民性だから仕方がないんだろうけど、あういぇ。

関連エントリ

『小悪魔はなぜモテる?!』(ウィル・グラック)―またはビッチに関する短い考察 - Devil's Own

女神降臨! easy A 小悪魔はなぜモテる?! - The Spirit in the Bottle

小悪魔はなぜモテる?! [DVD]

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*1:ちゃんと本文を読んでもらえば分かるが、良い悪いは別にしてと書いてあるのであしからず

*2:順番が逆でしょ!的な

*3:作品内で言われてたようにデミ・ムーアのヤツしか知らないんだけど。