R-15は伊達じゃなかった!『ドラゴン・タトゥーの女』

ドラゴン・タトゥーの女』鑑賞。原作もスウェーデン版も未見というスタンス。

「ミレニアム」という雑誌の記者がある実業家の不正を報道するも、証拠がないとして、名誉毀損で訴えられてしまった。それにて一文無しになってしまった彼だが、愛人である編集長に迷惑がかかるとして会社を辞めようと決意。どん底の状態にまで落とされてしまった彼の元に一件の仕事が舞い込んでくる。それは大企業の会長からのもので、約40年前に彼らが住む一族の島から痕跡を残さずに消えてしまった少女ハリエットの失踪事件の調査依頼だった。多額の報酬と名誉毀損で訴えた実業家を破滅に陥れる証拠も出すと言われた記者は、元々居場所がなくなったこともあって、警察も調べつくしたこの難事件に挑む……というのがあらすじ。

圧倒的な情報量と膨大なセリフが詰め込まれており、字幕が邪魔なくらい完璧な画面設計をとてつもないスピードでバンバンぶった切っていくため、時折置いてけぼりを喰らいそうになるが、それに付いていければ楽しめること必至の作品で、2時間半を超える長尺でありながらもダレる箇所はひとつもない。

ベースになってるのは前作の『ソーシャル・ネットワーク』であり、カメラワークから突き放したようなクールな色彩、テンポまで一緒で、あのタッチで普遍的なエンターテインメントをやってみたという印象を持った。ところが、モチーフは今までのデイビッド・フィンチャー作品に出て来たものばかりで、猟奇的な殺人事件は『セブン』であり、事件を執拗に追い、そのまま魅せられていくというのは『ゾディアック』で、凝ったPVのようなオープニングや抑圧された何かからの解放を目指すというテーマは『ファイト・クラブ』で、ミステリー性の高い先の読めない展開は『ゲーム』にも通ずる。

つまり『ドラゴン・タトゥーの女』は今までのデイビッド・フィンチャーの集大成でありながら、映像とテンポは最新系の作品であるということだ。

おもしろいなと思ったのはカット割りのリズムというか切り方である。

とにかくこの作品。意識的なのか、妙なところでカットが切れるのだ。特にキャラクターたちを説明しなければいけない前半のパートが顕著であり、例えば主人公がたばこを買ったら、たばこがレジ前に置かれるか置かれないかのところでカットが切れ、次のカットでは主人公がもうたばこを外で吸っていたりするなど、長い時間が飛ぶジャンプカットというような感じのズレたテンポを持っている。

ロックミュージックに例えれば変拍子ということになるのだろうが、オープニングにレッド・ツェッペリンのカバーをもってくるあたり、もしかしたら、この作品はツェッペリンの曲のような変拍子のオンパレードですよとすでに示唆していたのかもしれない*1

さらにそのオープニングは言わずもがな007調で、ダニエル・クレイグをキャストするにあたってのアイデアだったのか、妙にエロティックで作品そのものと乖離しているくらいカッコいい。ここだけでも観る価値は十二分にある。

と魅力は尽きないのだが、ネタバレ厳禁の映画であると思うので、他にも個人的にかっこよかった点を箇条書きにしていく。


Macのプロモーション映像か!というくらいMacBookがものすごくフィーチャーされる。SONYの作品なのにも関わらず、VAIOが出てくるのはほんの一瞬だ。登場人物がMacBookを自分の手足のように使っていて、あの一連のシーンには惚れ惚れした。恐らくあれを見てMacを買おうと思った人は世界中にたくさんいることだろう。

一度しか登場しないVAIO


・『ゴーストライター』もそうだったのだが、酒が魅力的に登場する。スコッチをガンガンあおりたくなるが、とあるシーンで冷凍庫からウォッカを出して、ビンから飲むシーンがものすごくかっこいい。向こうの人はウォッカを冷凍庫に入れるというのは常識のようだ。謎を追う話にハードリカーはつきものなのだろうか。ちなみに『ゴーストライター』でも同じように冷凍庫からスミノフを出してグビグビ飲んでいた。


・原作がそうであるかもしれないが、久しぶりにこういうメジャー作品で女性が痛めつけられるシーンを見た気がする。石井隆ばりの衝撃的シーンが適度にあるところが刺激的!!


・元来ぼくはガリガリの女の人が苦手でちゃりぽつ派であるが、以前、TEENモノのアレ*2に興味があるというエントリを書いたくらいで、ああいう幼児体型的な女の人に上に乗られてガンガンやられる例のシーンは少しばかり興奮した。それにしても何故モザイクがあんなことになっていたのだろうか。あれをフィンチャーは許しているのか?せめてキューブリックの作品みたいにスコーンと気持ちよく抜けたまんまるのモザイクにすべきではなかっただろうか。


・というか、そもそもドラゴン・タトゥーの女のビジュアルが妙にかっこいい!『フィフス・エレメント』でミラ・ジョヴォヴィッチを初めて見たときくらいの衝撃が!これは他の女優さんには出せない存在感だろう。やっぱりあの女に上に乗られて………


――――とまぁ妄想がすぎたが、ものすごくハードルを上げていったにも関わらず、それを軽々と越えて来たので当然ながらおすすめ!ただしR-15にしてはかなり過激なシーンがあるため、それなりの覚悟を持っていくこと!あういぇ。

*1:「移民の歌」は違うが、ツェッペリン変拍子を使った曲が多い

*2:http://d.hatena.ne.jp/katokitiz/20100110/1263053066