この映画が製作された4年後に「アイドル戦国時代」がやってくる…『バックダンサーズ!』
とあるアイドルのバックダンサーをつとめていた4人組。ところがそのアイドルが電撃引退することで職を失ってしまった!芸能界とトップアイドルに振り回された彼女たちだが、それでも夢を捨てきれず……というのが主なあらすじ。
人気映画サイト「破壊屋」にて、つい先日この作品が取り上げられた。
その選択にも驚いたが、確かにこの映画、「アイドル戦国時代」に突入した今だからこそ、改めて観る価値があるのではないかと思った。
当時はアイドル業界を牽引していたモー娘。からエース級のメンバーがスキャンダルなどで全員辞めてしまい、その勢いが急激になくなりだした「アイドル冬の時代」で、後にAKB一期生として入った板野友美が幼馴染から「アイドルなんてやってんじゃねーよ!キモイんだよ!*1」と罵られてしまうくらいアイドルはダサいものに成り下がっていた。バンドブームが去ったあとに、バンドがこの世で一番ダサイものになってしまったのと一緒だろう。
そんな逆風の中、まだ地下アイドルと呼ばれていたAKBの劇場が満員になるかならないかくらいの時に製作された本作。アーティストにすべきなのか、アイドル寄りにすべきなのか迷っていた元SPEEDのhiroのプロモーションのために作られたようなものだが、アイドル映画として考えると、原作から主演から挿入歌/主題歌までAKB関連で固めた『もしドラ』よりも遥かにおもしろく、その魅力が詰まっていたといえる。当時スクリーンで観たのだけれど、結構満足して出て来た記憶がある。
『バックダンサーズ!』というタイトルも潔くて良いが、それ以上にアイドルが電撃引退して取り残されたバックダンサーが主人公という設定が抜群である。この日本においてありそうでなかった題材に、小説や漫画では出来ない、映画だからこそ出来る音楽と映像の融合がクライマックスに向けて加速していく。見世物小屋としては、プロットや演出がどうなろうとこの時点である程度勝ちは見えていたのかもしれない。
hiroやソニンのキャスティングは当然だが、サエコと平山あやが選ばれたのがおもしろいと思った。バックダンサーという設定なので、役柄上はダンススキルが高くないとダメだと思うのだが、アイドルとして見た場合、ダンスがうまい人/ヘタな人がいることで集団としての魅力になるので、あえて劣等生をぶちこむことでアイドルの「綻び*2」をうまく表現している。
ハッキリ言ってアホほど「挫折」や「夢」が丸出しで、青春臭が全体的に漂っているため、観ていて恥ずかしくなるシーンも多々あるが、若々しいキャストがそれをきちんと体現。特に現実的な役どころであるソニンは熱演していたように思う。今では有吉に「金目当て」と評されるサエコも鼻にかかった声をうまく使って演じ、普通の人である平山あやなど、4人が4人とも均等に役と見せ場を振り当てられている。
なによりもこの個性的な4人のバックグラウンドをもりこんだ脚本がなかなか素晴らしい。ハッキリ言って演出面で特出すべき点は何一つないが、その分大きな破綻もあまりないように思う――――というよりも今の邦画に酷すぎるのがたくさんあるから良く見えるという話も………冒頭は蛇足であり、物語の入り方にパワーはなかったが、初監督作とは思えない安定感があり、安心して観ていられる。
4人がメインだが、脇役もきっちり仕事をしている。陣内孝則の渋さ、木村佳乃の抑えた演技、本当にちょい役だが真木蔵人もかっこよかった。その中でもマネージャー役を演じた田中圭がとにかく素晴しい。今ではイケメン枠の人気者だが、当時ここまでのポジションまで上り詰めるとは思ってなかった。
『バックダンサーズ』というタイトルが示す通り、メインはダンスシーンである。練習をきっちりつんだであろうダンスシーンには説得力があったが、近年の香港映画のカンフーアクションと一緒で、編集でぶつ切りになってるのが惜しい。なのでワンテイク/一発勝負で撮った感じがあまり出てない。これはこれでスピード感が出るだろうが、もうちょっと長いテイクを要所要所で使うべきだった。
ただ、そのクライマックスのライブシーンは画が持つようなクオリティを誇っている。きっとここに制作費のほとんどがつぎ込まれたのだろう。ほんの何分かのためにものすごい金額が動くというのが映画なんだと改めて思い知らされた。『もしドラ』の関係者はこの映画を100回くらい見直せと言いたい。
というわけで、さしておすすめもしないが、アイドル映画として及第点はあげられるだろう。リメイクとは言わないが、今の芸能界にあわせてキワキワのラインで作りなおすのもおもしろいかもしれない、あういぇ。
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【追記】
クライマックスのライブシーンは“dream live 2006”というイベントの後にすぐ撮影されたものだという情報をいただきました。つまり『BECK』と同じ方式で撮られたわけですな。どーりで迫力あるはずだわい。