桜井さんの誕生日ということであえて「SUPERMARKET FANTASY」の感想を


ぼくはミスチルの熱心なファンではないけれど、アルバムはきっちり聞いてて、特に『深海』に衝撃を受けた。

当時はミスチル現象といわれ、出す曲、出す曲、天井知らずの売り上げを記録していた。当然ながら次のアルバムはヒットソング満載のベスト盤的なものになると思われたが、バンド側から提示されたものはまるで違っていた。

シングルはアルバムの毛色に合わないということでほとんど収録されず、一曲目からラストまで曲間が繋がってるものもあり、当時はコンセプトアルバムという言葉を知らなかったが、アートワークも含めてまるまる一枚で何かを表現しようとしていることが分かった。ポップな曲は皆無で、世間が求めていたミスチルを裏切り、彼らはダウナーでとっつきにくいものをあえてシーンに叩きつけてきたのだった。『深海』は270万枚という前人未到の売り上げを記録するが、これは今だったら考えられないことである。

それまでポップというイメージだったミスチルだが、ロックバンドとしてのアイデンティティを確立したのはまぎれもなく『深海』だ。ヴィンテージの機材にこだわったモコっとした音質はレニー・クラヴィッツを彷彿とさせ、それまでにいくつかあった和製コンセプトアルバムとしても決定打になった。そしてそのあとに発表した『Q』もビートルズストーンズ、ディランを有機的に組み合わせた作品で、ロックバンドとしてのミスチルが大きく飛躍した。

正直『深海』までは「桜井和寿小林武史 With ミスターチルドレンズ」という印象が強かったのだが、ぼくの中でミスチルをバンドとして認識するようになったのはこの二枚である。

もちろんそのあとも水準以上の作品を作ってきているわけで、それなりに楽しく聴いてきたわけだが、近年でいうと『HOME』がぼくの中では全然ひびかなくて、一回聞いたんだけど、どの曲も印象にのこらず、そのあと聞くこともなくなってしまったので、まさに『あんまり覚えてないや』状態。

なので次作であった『SUPERMARKET FANTASY』もそこまで期待していなかったというのが当時の本音だ。

さて、そんな『SUPERMARKET FANTASY』なのだけれど、捨て曲は「風と星とメビウスの輪」くらいで*1、『HOME』のコンセプトである「あえて言うまでもない、日常の言葉、行動、景色等を大切に」を発展させたような、覚えられそうで覚えられない、それでも聞いてて耳なじみの良いメロディたちがずらりと並ぶ。

ウィキペディアからの引用になるが『HOME』についてメンバーがこのように語っていたらしい。

「演奏よりも歌そのものに重点を置いてみた。楽器も歌っているようになっている。もしこのアルバムが誰かから気に入られなくても、嫌いな人(アルバムが気に入らない人)もいれば、好きな人もいるんだと思うし、それでいいと思う。」

つまり『HOME』は桜井和寿自身がうたいやすい、うたって意味のある曲たちがならんでいる。だから、音域も激しく上下せずに落ち着いたものが多く、アレンジもそれに寄り添うようになっているのだ。

SUPERMARKET FANTASY』は『HOME』のコンセプトを軸に、ポップでキュートでカラフルな色彩と、跳ねたメロディを重ねたような作品になっていて、メロディはパキッとしてないが歌い心地が良く、それでいてミスチルらしさが全開のアレンジが光っていた。つまり前作を本来の意味で超えてきたのである。

そのカラフルな色彩はミスチルのアルバムの中でも異色であり、ROCKIN'ON JAPANで「最高傑作になりましたね」とインタビュアーがインタビューのドあたまからかましていたが、ちょっと言わんとしてることは分かる。実はポップのイメージが強いミスチルだが、基本的にアルバムは暗いものが多く、ここまでポップとして突き抜けたものはなかったからだ。

曲順も完璧で、1〜5曲目、6〜11曲目、という2つのブロック。そして12曲目の前半で落ち着かせて、後半から大作の「GIFT」と「花の匂い」で締めるところなんかは心憎い。

個人的に岡村靖幸っぽい裏を取ることを意識した「終末のコンフィデンスソング」、「UFO」をシリアスにした「少年」、「LOVE」や「one two three」を彷彿とさせる「口がすべって」、3連の「ロックンロール」、ミスチル流ナイアガラサウンドな「東京」、アルバムを象徴するゴージャスな「エソラ」が特に印象に残った。いつもはシングル曲が明るく、アルバム曲が暗いのだが、ここで大きく逆転した。

歌詞も『IT'S A WONDERFUL WORLD』のときのような男心をうたったものやメッセージ性のあるものを中心に、ストレートないい回しの歌詞がふえた。スケールが大きくなっていたきらいがあったが「口がすべって」の歌詞は「LOVE」や「シーソーゲーム」のように男のかっこ悪さや自分勝手さをえがいていて初期ミスチルを彷彿とさせた。

曲もさることながら、特筆すべきはなんといってもアートワークだ。

アルバムのタイトルもコンセプトもジャケットもぜーんぶ森本千絵が担当したらしいのだが、プレゼンした瞬間からメンバーが気に入り、当初作ろうとしたものとは違うものになってしまったくらい、このアートワークにメンバーが引っ張られた。それくらいインパクトがあり、すばらしかったのだろう。

そのせいで「エソラ」は歌詞まで変わったらしいが、それもうなづける納得のアートワークである。歌詞カードにもうちょっと工夫があればよかったが、音源をダウンロードするのが主流になってしまった今、手に取って買いたくなってしまうくらいジャケットにこだわるのは重要だ。

SUPERMARKET FANTASY』はポップでゴージャスなアレンジメント、斬新なアートワーク、不完全だが耳なじみの良いメロディと、全てがいままでのミスチルとはちがう次元のものであるといえる。最高傑作はいいすぎにしても『IT'S A WONDERFUL WORLD』と肩を並べてもいいんじゃないだろうか。なのでミスチルが好きで好きでしょうがない人よりも、ミスチルとある程度の距離があったり、ミスチルに興味がない人におすすめしたい一作である、今日は桜井和寿氏の誕生日ということでツイッターミスチルで埋まったので、こうして加筆して修正を加えたしだいだ。これから久しぶりにミスチルを聞きまくろうと思う、あういぇ。

SUPERMARKET FANTASY [通常盤]

SUPERMARKET FANTASY [通常盤]

*1:あくまでぼくは