フィクションのような実話ベースのお話『マリリン 7日間の恋』

マリリン 7日間の恋』鑑賞。

トリュフォーの『アメリカの夜』をベースに『ラムの大通り』や『ローマの休日』といった「いずれお別れが決まっている一般人と有名人の恋愛」を絡ませたクラシカルな作品であるが、これが実話だってんだから驚く。

もちろん、ある程度、脚色はしてあるんだろうが、映画の中でしか描かれないような出来事が映画の撮影中に起こっていたとは……いったいマリリン・モンローとは、どこまで映画スターを地でいくような人物だったのだろうか。

その内容からゆったりした切ない大人の恋物語を想像するだろうが、前半は同じようなテーマをポルノ業界に当てはめた『ブギー・ナイツ』のようなテンションで観る者を圧倒する。

何気ない会話シーンでもカメラは筆写体を軸に旋回するわ、カット割は細かいわ、フリーズフレームが出てくるわ、ニュースフィルムを撮影しているていで、荒いモノクロの動画を組み合わせるわ、多種多様の映像がジェットコースターのように、とてつもないスピードで展開されていく。逆にいえば、クラシカルな作品をテンション高く演出するとどうなるのか?という試みを意図的にしているようにも思える。

そのテンションに合わせたかのような役者たちの演技がこれまたすごい。ミシェル・ウィリアムズのマリリン完コピ演技は言わずもがなだが、この演技を、以前『セレブリティ』でウディ・アレンの完コピに挑んだ、ケネス・ブレナーの目の前でやるというあたり、なかなか感慨深いものがある。そのケネス・ブレナーもハイテンションな演技で、ミシェル・ウィリアムズのキュートな立ち振る舞いを援護射撃。圧倒的な個性を放つ役者たちの中で、コリン役を演じることになるフレッシュなエディ・レッドメインが一服の清涼剤的な役割をはたしていた。

さて、この作品、『マリリン 7日間の恋』というタイトルだが、どっちかというと、このタイトルの部分は後半の少しだけであり、基本的には「デリケートな大人気スターの気まぐれとワガママに振り回される監督の苦悩」の部分が多くを占めている。さらに映画は、古き良き伝統とそれを壊す革新的な技法の対決というような『雨に唄えば』のようなところもあり、映画好きやその歴史の造詣に深くないとピンと来ないセリフも多く、ラブストーリーを期待すると肩すかしを喰らうのではないだろうか。

実際、ぼくも観る前は「はいはい、恋多き女、マリリンのね、はいはい」という感じだったのだが、見始めて、トリュフォーの『アメリカの夜』を彷彿させるような展開に一気に掴まされた。しかもそれが、ローレンス・オリヴィエの『王子と踊子』という実際にある作品の舞台裏であればなおさらである。

しかも、その恋愛部分がまったく邪魔になっていない。本当は薬が必要なくらい衰弱し始めたマリリンの様子を助監督をつとめる男が知ることにより「ただ単に遅刻しているだけと思っている現場」と「衰弱していることを隠しているマリリン」というそれぞれの立場が、その助監督の視点によって融合し、まったく違うふたつの様子のものが、自然と物語に溶け込んでいた。

内容こそバランスはいいが、演出においては、前半のテンションに比べると後半がやけにウエットになったなという感じは否めないものの、良作。いろんな人に広くおすすめできる一品であった。マリリン・モンローファンは必見ではないかと。