まさかのパワーアップで上映禁止も納得!『ムカデ人間2』

ムカデ人間2』をUS盤BDで鑑賞。たつまつたさんのおかげで観ることが出来ました、ありがとうございます。

物議を醸し出した映画「ムカデ人間」を熱狂的に愛する警備員が主人公。彼は自分の置かれた環境から鬱屈した怒りを溜めこんでおり、「ムカデ人間」を観ることによってそれを発散させていたのだが、ついに大爆発。その怒りをムカデ人間作りにぶつけるのだが……というのが主なあらすじ。

今書いたように主人公は『タクシードライバー』のトラヴィスであり、グロテスクなホラーでありながらも、その行動原理にはすこしばかり共感してしまうというのが前作との大きな違い。

ぷっつんしたあと、とにかく目についたヤツらをバールのようなものでぶん殴りまくるという前半は『フォーリング・ダウン』を愛する人間にとってはかなり痛快であり、同じようにそういった怒りを『タクシードライバー』を観ることで発散させてきたぼくのような人間にとっては胸熱な展開でもある。前作はムカデ人間にさせられてしまう人からの視点だったが、今作は徹底してムカデ人間を作る側から描いており、その作る側の人間に少しでも観客が寄れるようにしたのだろう――――にしても、それはほんの塩ひとつまみ程度なのだが……

効果音を拡張したような不穏な音楽に心臓の鼓動音がかさなり、さらにモノクロでつくられているため、雰囲気はまるで『イレイザーヘッド』であり、そういった作品を下敷きにしているので*1、ひとつの映画/物語としてかなり楽しめる。前作は低予算であるということが武器になっていたようにも思うが、今作は大画面にも耐えれるような広々とした空間の画作りが見事であり、演出はかなり手堅い。

ところが、そんな前半とは裏腹に、後半はとてつもなくヒドい。良い意味で最低最悪である。個人的には『ピンクフラミンゴ』以来の衝撃だったといってもいい。

だいたいこの手の残虐映画がでると、猟奇犯罪を助長するだとか、悪影響があるだとか、コメンテーターがしたり顔でいうわけだが、今作は「ムカデ人間」に影響されたファンが、本当にムカデ人間を作るという、今までにないようなメタフィクション的な展開をみせる。ただし、本当に影響されて、もしこういうことをしたらどうなってしまうのか?ということをハッキリと映像に見せるのが前作との大きな違いで、「ここまでやりつくしたら、さすがにこれをマネするようなヤツはいないだろう」というくらい見せれるところはすべて見せている。

前作は予算の都合なのか、意図的なのか、目を覆いたくなるような部分はそこまで見せていなかったが、今作では大盤振る舞い。狂気という名のダークサイドに堕ちてしまった主人公の悪ノリはこちらの神経を逆なですること必至で、上映禁止になったのも頷けるくらい強烈。その阿鼻叫喚のクソ地獄を見て、ムカデ人間を作った本人ですら劇中でゲロを吐いているが、そりゃそうだろうと観てるこっちもつねに苦虫をかみつぶしたような顔になり、あまりのヒドさに笑ってしまうくらいである。

モノクロでの表現になったのはそういうことを加味しているのかもしれないが、逆にそれがとてつもないリアリティを生んでおり、作り物感であることをそこまで感じない。黒澤監督はかつて、煙突から吹き上がる煙だけに着色するという技術を使ったが、今作でも「とあるもの」だけに着色をほどこすなど、その徹底したこだわりには頭がさがるばかりだ。

前作ではよくしゃべるヤクザがいい味をだしていたが、今作は真逆で主人公がひとこともしゃべらない。当然ながら吐息や叫び声、表情だけでの演技になるのだが、これが本当にすばらしい。内容が内容だが、観るひとが観たら、主演男優賞は間違いなしの超名演技であり、前作同様、監督は役者に演技をつけるのが本当にうまいということがよくわかる。

というわけで、よく出来たホラーという印象が強かった前作よりも作品としてはいびつながら、異常なほどのテンションでパワーアップした『ムカデ人間2』はまったくおすすめ出来ない。前作に感銘をうけた好事家のみ、挑戦してみよう。ただし、飯食ったあとすぐに観ると本当に気分が悪くなるので、レイトショーかなんかで、空きっ腹にビールを流し込んでから観ることをおすすめしたい……

ムカデ人間 [DVD]

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以下、軽いネタバレ




ラストについて。

ぼくはあの主人公をトラヴィスだと思っていたため、それと同じようなことだろうと解釈した。