「AKB48選抜総選挙 BOMB文学賞」に応募して落選しました

アイドル雑誌「BOMB」で「AKB48選抜総選挙 BOMB文学賞」というのを応募してまして。

君は、何を見たか? 「AKB48選抜総選挙 BOMB文学賞」開催! | BOMB編集部 オフィシャルブログ「BOMBlog ボムログ!」

賞金5万円に目がくらんで応募してみたんですが、ものの見事に落選しました。

まぁ、端から落ちたとしても、ブログに載せりゃいいやくらいの気持ちだったので、成仏させます。



『非選抜が選抜された日』

――――18.7%

これは第4回AKB48選抜総選挙の平均視聴率である。瞬間最高視聴率は28%を記録。この数字は驚異的と言わざるを得ないだろう。

はじまった当初は劇場支配人の戸賀崎智信と衣装担当の茅野しのぶが司会を担当していたくらいの内輪向けの企画だったのだが、その3年後には総選挙の様子がNHKのニュースで取り上げられるなど、文字通り、国民が関心するようなイベントになってしまった。

内々ではじまった企画なだけに、当然ながら興味がないひとにとっては「そんなくだらないものをテレビで放送するな」といいたくもなるだろう。実際、選抜総選挙はイベントとしておおきくなりすぎたきらいがある。第1回目のように細々とやり、その結果は公式のホームページがなんかで発表する――――それくらいの規模でいいはずなのだ。

だが、単にファンのためのイベントなら、視聴率はここまでのびなかったはずだ。AKB初のゴールデンのレギュラー番組「なるほどハイスクール」が低視聴率だったということがものがたるように、国民的アイドルと評されるようになったAKBのメンバーがテレビにでていても数字が確実にとれるという確証はどこにもなかった。つまり、今回の高視聴率は総選挙というイベント自体に関心をもっているひとが増えてきたということなのだ。

「一人一票じゃないのに選挙とよべるのか?」と常套句のように揶揄されるが、AKBの選抜総選挙というのは、ファンがシングルの選抜メンバーをえらぶというのが本来の意図であり、人気投票とはすこし意味合いがちがう。当然ながら選挙とも違うのだ。総選挙と銘打たれている以上、しかたがないことなのだが、たしかにこれを報じているメディア側も投票するファンも、そしてAKBのメンバーでさえも、そのへんを若干履きちがえているような気もする。

「この娘は公演をがんばっているし、握手会での対応もいい。なのに、なぜ選抜入りしないのだ!?運営の目は節穴だ!この娘が選抜入りしているすがたをみたい!」

というのが本来の投票の意図であるべきなのに、いつの間にか、自分の推しがすこしでも上位にいくことを願うような人気投票になったことは否めない。それがCDの大量買いという悪しき風潮を生むことになった。

そして、選抜総選挙がだんだんと国民的なイベントになるにつれ、その本来の意図とのズレに翻弄されるメンバーもでてきた。

チームAの仲谷明香はその総選挙のズレに翻弄されてきたひとりである。

仲谷明香はAKBの三期生にあたり、今回の総選挙でも上位にランクインした渡辺麻友柏木由紀と同期である。前田敦子と中学が一緒で、彼女がAKBに入ったことを人づてに聞き、それに衝撃をうけ、さらに自分の夢を叶えるためのステップというコンセプトに惹かれ、声優志望ながら、お金がなく声優学校を途中で辞めることになった彼女は、これにかけるしかないと、夢を叶えるための手段としてオーディションを受けた。

だが、元来アイドルに興味がなかった彼女はオーディションに場ちがいと思えるかっこうであらわれた。アイドルには清純さがもとめられるため、白い服を着ていくのが常識であったが、彼女は黒い服で現れた。さらにメガネをかけていったことも致命的であった。キャラクター付け以外でメガネをかけるというのはアイドル界では御法度だ。じっさい彼女は目がわるいという理由でメガネをかけていったのだが、審査員に「どういう狙いがあるのですか?」と質問されるはめになった。

そんなわけで、さんざんだったオーディション結果に落ちることを確信したが、なんと見事に合格。仲谷明香は約12000人中の20人という狭き門をくぐり抜け、三期生としてチームBに所属されることになる。

華々しくチームBの公演がはじまったのだが、ここから彼女の苦難がはじまる。先天的にアイドル気質を持っている娘が周りにいたこともあって、声優志望であり、アイドルとしてのかわいさを持ち合わせておらず、どうやってファンと接していいのかわからない仲谷明香は完全に出遅れた。ファンレターの数や公演での声のかかりかたなどで選抜入りが決まることもあり、早々に人気を獲得した渡辺麻友などが選抜入りするなか、仲谷明香は「人気獲得」に悪戦苦闘することになる。

ところがだ、先天的にかわいさを持ってない彼女は人気を獲得するという努力を公演に向けることにした。すなわち、AKBの原点である劇場公演を極めようとするのである。

今でこそAKBは「アンダー」という代役業務が当たり前になっているが、当時は少人数で歌うような楽曲に重要なポジションを担ってる人がでれなくなると、その曲を飛ばしたり、公演の内容を変えたりしていた。その日も病気で公演を欠席していた娘がおり、その曲を飛ばそうかとスタッフ間で話しをしていたが、そんな話を聞きつけた仲谷明香は「その曲、私に歌わせてください」と志願した。遊び半分で他の娘のユニット曲の振り付けを覚えていた仲谷ならではの申し出だったが、リハーサルにて、彼女に踊らせてみたところ、いけると判断したスタッフは彼女をその公演に出すことにした。

リハーサルと違い、本番では緊張もあって、細かい失敗などあったが、これをチャンスと考えた仲谷は自分の振り付けを完璧にしつつ、他の人の振り付けまで徐々に覚えていった。アイドルとしての人気を獲得できないならば、他で努力するしかないと思ったのである。

そして、それが仲谷に良い結果をもたらした。ケガや病気で公演に出れないひとの代役として「代役といえば仲谷」ということが定着。他のユニットはおろか、他のチームにまで代役としてひくてあまたの存在になっていき、気づけばAKBにとってかかせないアンダーというポジションを作り上げてしまうのである。

そんな努力家である彼女にたいして、残酷な現実が突きつけられるときがやってくる――――そう、選抜総選挙である。

人気が得られないぶんを公演で取り返そうとしていた彼女にとって、やはり総選挙にランクインしないという現実はあまりに残酷だった。スタッフに評価され、今の事務所の社長に目をかけられるなど、ある程度、運にも恵まれてきたが、アイドルというかわいさを持っていなかった彼女は、かわいらしい後輩や運営の推しの娘などにどんどん追い越されていった。選抜に入るというのがひとつのステータスになっているなかで、彼女は第2回、第3回の総選挙でも選抜入りすることは出来ず「非選抜アイドル」という真逆の称号を得てしまった。

「努力は必ず報われる」――――その努力とは一体何なのか?努力をしていても結局運営から推されない限り、自分は選抜メンバーになれないのではないか?仲谷明香がAKBに加入してから5年が経過しようとしていた――――。

だが、そんな彼女に転機が訪れる。それがAKBをモチーフにしたアニメに声優として選ばれたことと『非選抜アイドル』という本の出版だ。前者はその企画自体に内輪感があったものの、彼女の夢への第一歩であったし、後者はAKBというグループの中でどのように立ち回ってきたのかというのを「非選抜」ならではの視点でつづり、5万部を越えるヒットとなった。

そして、今回の総選挙である――――。

仲谷明香は見事に36位にランクインした。

今までのように決して目立つような順位ではないが、それでも前回、前々回と選抜入りを果たしたメンバーを何人も抜きさっての順位。もちろん「非選抜アイドル」の影響が大きかっただろうが、グラビアもなければ、帯以外には彼女の写真もついてない新書という、ガチンコの書籍だったことが逆によかったのだろう。そういった部分も含めた彼女なりの努力がついに報われた瞬間であった。

仲谷明香だけじゃない。今年の総選挙は今まで苦労してきたひと、さらには公演を頑張っているひとが次々に圏外からランクインしてきた。

仲谷と同じように加入してから5年選抜入りしていなかった片山陽加は「google+」での活躍が認められ、「ぐぐたす選抜」としてチャンスをつかみ、見事に今年は圏外からランクインした。

公演を誰よりも大事にしている河西智美は今年、熱中症や体調不良などで公演に出れないことが多かった。彼女が公演に出れないことを悔やんでいることはファンなら誰もが知っている。ファンはその悔しさを汲んだのか、河西は目立った活動もしていないのにしっかりと順位を上げ、選抜入りを果たした。

アンダーガールズにSKEやNMBのメンバーが続々ランクインしたのも、彼女たちの選抜が見たいという欲求の現れだったように感じた。さらに無名中の無名である研究生、武藤十夢が並みいるメンバーをおさえてフューチャーガールズのセンターを勝ち取るなど、公演での評価がランクにつながったりした。SKEの研究生である松村香織もそのひとりだろう。

逆にあれだけ運営に推され、CMやドラマに出演した光宗薫は見事に圏外になるなど(運営に推されるとアンチが増えやすい)、その結果は如実に現れた。

高橋みなみは今年こんなスピーチをした。

「ある方は『努力は報われない』と言いました。そうかもしれないです。全部は報われないかもしれない。運も必要かもしれない。でも、努力しなけりゃ始まりません」

たしかにAKBの総選挙は始まった当初よりも巨大なものになり「ファンによる投票でその人気に順位をつけられてしまう残酷ショー」という側面にスポットがあたるようになった。それは仕方がないのかもしれない。だが、今年は「ファンが選抜メンバーを投票で選ぶ」という本来の意味を取り戻したような、そんな良い総選挙だった。前田敦子の辞退も重なり、その票がうまい具合に若手に回ってきたのだろうが、そう言った良い総選挙が18%という視聴率の中で世間にアピール出来たのはとてもよかったことだと思う。

そう、努力は必ず報われるのだ。それを仲谷明香は「非選抜アイドル」として身をもって証明してくれた。


参考文献『非選抜アイドル』仲谷明香(小学館101新書)

非選抜アイドル (小学館101新書)

非選抜アイドル (小学館101新書)