『震える舌』をレンタルDVDにて鑑賞。『あの頃映画 松竹DVDコレクション』の第一弾にして、長らくDVD化が望まれていた作品でもある。今回まんをじしてのHDニューマスターという気合いの入ったパッケージングで登場した。
ある日、泥んこ遊びをしていた女の子が指先をケガしてしまった。だれもが起こりうるケガだっただけに両親は医者にも見せなかったが、数日後、食事をしない、歩き方がおかしいなど様子がおかしいことに気づく。娘をなんどかいろんな病院につれていくも、娘の医者を拒絶する態度に診察がなげやりになり「まぁただの風邪でしょう」 「精神性の疾患ですな」など、どうも的を得ない診断がつづく。やがて娘は舌をつよく噛むほどのけいれんをおこすほどになり、救急車で大病院にはこばれ、精密検査の結果「破傷風」にかかっていることが判明。両親は懸命に看病をつづけるが、自身も破傷風にかかってしまうかもしれないという恐怖と、ちょっとした物音での痙攣の連続に精神に異常をきたしはじめる……というのがあらすじ。
「トラウマ映画だ!」 「和製エクソシストだ!」などの前評判を聞いていて、是が非でも観たかった作品のひとつ。この時代にVHSで観るのもしゃくなので、レンタルを待っていたら、見事に発見して今日に至る。
破傷風にかかってしまった女の子とその両親の闘病記を描いた作品であり、その前評判とはうらはらに映画はものすごく地味で重厚でリアリティがある。新しいホラーと銘打って公開されたようだが、その実、作品自体は医療ドラマにカテゴライズされるべきであろう。
基本的に展開としては、発病する→入院するから、けいれんする→医者を呼ぶ→けいれんする→医者を呼ぶの繰り返しなので、やや単調ではあるが、こちらが飽きたころくらいに、スーパースローを使ったり、オーバーラップを組み合わせ、映像的に盛り上げるのが特徴。それ以外は現実の地続きといわんばかりに、徹底したリアリズムを最後まで突き通す。映像の端々に見える、写実感が素晴らしく、それを見ているだけでも感動すること必至。音楽もオカルトホラーのそれ風にド派手に展開され、映像との落差でもって、観客を恐怖のどん底に突き落とす。
この地味なドラマを盛り上げるのはなんといっても破傷風にかかった子役の演技。いろんなところで言われているように見事である。この子の看病に疲れた両親が精神に異常をきたしていくのだが、子役の演技に引っ張られる感じで、いい意味で作品を援護射撃。キャスティングに関しては完璧といっていいのではないだろうか。
というわけで、今だったらとてもじゃないけど映像化出来ないような徹底したリアリズムに打ちのめされた。地味ながらも非常にバランスのとれた良作。社会派監督、野村芳太郎の底力を体感せよ。
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