『ギンガムチェック』を90分引きのばしてみました『ブラッディ・スクール』

AKBの『ギンガムチェック』のPVを観たときになんてぶっ壊れてる世界観なんだと素直に思った。

ひとことでは説明できないが「グラインドハウス」のフェイク予告編風のPVで、楽曲のイメージは完全無視し、5分半のあいだに、ミニスカポリスのような衣装で銃撃戦を繰りひろげたり、きゅうに怪獣が暴れだしたり、ウォリアーズ的な世界でカンフーをしたり、セーラー服を着たメンバーがつぎつぎゾンビになったりとやりたい放題。それぞれにタイトルがついているのだが、シークエンスとして独立してるわけではないので、観てるこちら側としては、一本の映画なのか、それともこれは別々なものなのかがわからずじまいだった。さらに画面にはCGでつくられたかわいらしいフォントの字幕が随所に差しこまれ、一回見ただけではそのすべてを把握できないほどの情報がギュウギュウにつめこまれていた。

すさまじいPVだなぁと思いながらもたのしく観たのだが、このPVを監督したジョセフ・カーンが2011年に撮った『Detention』という映画を観て、なるほどと合点がいった。なぜかというと、この『Detention』は『ギンガムチェック』を90分に引きのばしたような作品だったからである。時間軸でいえば、映画の方が先に撮られているので『Detention』の感じをそのまんまPVで表現したのが『ギンガムチェック』というほうが正しいであろう*1

『Detention』は日本未公開の作品で、『ブラッディ・スクール』という、どっかで聞いたことあるような、やっつけな邦題をつけられ、めでたくDVDが本日9月5日にリリースされた。以下『ブラッディ・スクール』と表記させていただく。

『ブラッディ・スクール』はおどろくことに、ストーリーとよべるモノがない。いや、あるにはあるんだけど、思いつきや、やりたいことだけが先行し、著しく整合性に欠けていて、何が何だかわからない。これは監督第一作の『トルク』にもいえることだが、どういう話?と人に聞かれても、説明がいっさいできないのである。

一応、学園を舞台にしたスラッシャー映画だが、その内容はめまぐるしく変わる。しゃべってることもほとんど音楽と映画のことだけ(しかもかなりマニアック)。冒頭からフルスロットルであり、メタ視点でひとりの女の子の日常が紹介されたと思ったら、その子がなんの脈絡もなくいきなり殺人鬼に殺される。一事が万事その調子で、物語に直接関係ないシークエンスが次々やってきては消えていく。その突拍子のなさは、ある意味でドンデン返しともいえるので、その内容には一切触れられないが、それこそ『ギンガムチェック』のPVのごとく、監督の大好物が無意味に羅列されているだけである。例えるならば『キル・ビル』や『スコット・ピルグリム』からストーリーと人間ドラマをぶっこ抜いた、全編これ見せ場だけの映画だ。もっといえば、音楽がかからないPVともいえる。


これが学生を襲う殺人鬼。あまり重要なキャラクターでもない


そう聞くとものすごくおもしろそうと思うかもしれないが、逆にやりたいことだけを無意味に盛り込んでも映画として成立しないということを改めて明確にしてしまった作品でもあり、ハッキリいえば「映画」とは呼べないかもしれない。だが、今までに誰もが考えてやらなかったことをついにやってしまったという意味でかなり貴重な作品だと言えるし、映画ではなく、全編PVだと割り切って観るとすんなり受け入れることができる世界観であるともいえる。

とにかくこの作品。全編PVだけあって、映像だけはやたらとハイパーでゴージャスである。随所にCGで作られた字幕が差し込まれ、前半では数分に一回、いや数十秒に一回この字幕が画面を覆いつくす。短いカット割りでガンガンスピードをつけると思ったら、急にゆったりとしたステディカム長回しが出て来たり、さらにトラックアップに逆ズーム、360度パンのモンタージュ、スローモーション、フラッシュフォワード、シェイキーカムなど映像テクニックの雨あられだ。スラッシャー映画の体裁なので、血も吹き飛ぶし、首も飛ぶし、おっぱいもチラっと出る。

『トルク』も全編PV的な演出に挑戦していたが、まだここまでぶっとんだ映画ではなかった。ジョセフ・カーンは限界に挑戦したのかもしれない。90分の作品だが、引き延ばしてる感じは一切なく、ハイテンションのまま、そして意味不明のまま映画は終わる。

というわけで、観た人ほとんどの感想が「??」という感じだが、ぼくはこのぶっ飛ばし方がおおいに気に入った。テンションの高い映像!セリフは映画と音楽のことだけ!吹き飛ぶ血しぶきと生首!――――あとはネタバレになるから言えないが、とにかくそれしかでてこない映画なんて最高じゃん!

もしジョセフ・カーンがこの方法論ですべてのジャンルを作るというのならぼくは一生ついていくつもりだ。『ブラッディ・スクール』最高!マジ最高!『ブラッディ・スクール』万歳!『ブラッディ・スクール』に幸あれ!あういぇ!

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http://blog.livedoor.jp/notld_1968/archives/15603958.html

ギンガムチェック(Type-B)(数量限定生産盤)【多売特典生写真無し】

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*1:正確にいえば、ああいう世界観のPVをそもそも撮っていたのかもしれないが、不勉強のため割愛させていただく