『ドライヴ』がダメだった人にもおすすめ『ブロンソン』

ブロンソン』をレンタルDVDで鑑賞。英国で最も有名かつ凶悪な実在する囚人、マイケル・ピーターソンの半生を描いた作品。

今年公開された話題作『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督作。2008年の作品ながら日本公開はなしで、DVDスルーになるかどうかも不安だったが、このたび、奇跡的にリリースされた。日本以外、世界的に注目を集めた作品であり、主役を演じたトム・ハーディーは今作で見事にブレイク。『インセプション』や『ブラック&ホワイト』に出演するはこびとなり、あの『ダークナイトライジング』でもベインを演じることになった。

いろんなところで言われてるようだが『時計じかけのオレンジ』をベースに『キング・オブ・コメディ』で味付け。じっくり見せるトラックアップに唐突なクローズアップ、そして突き放したようなロングショットによる移動撮影や左右対称気味の映像、クラシカルな音楽にナレーションの使い方など著しくキューブリック作品のシェーマを見事になぞっている。しかし、それがこれみよがしの飛び道具ではなく、きちんとフォロワーとして自分の手癖のように扱っているのが見事で『へルタースケルター』の蜷川ふんちゃらはこの作品を100万回くらい観て勉強し直せと言いたくなるほど。撮影監督に『アイズ・ワイド・シャット』のラリー・スミスを起用するあたり、そのこだわりが伺える*1

もちろんそれを再現するだけでなく、字幕を画面いっぱいに使ったり、奇々怪々なイラストをアニメーション化したり、フリーズフレームをここぞというときに使ったりなど、独自の作家性を盛り込み、それが作品のテンションを上げることにも成功。まさにレフン監督独自のものになったといっても過言ではない。これだけ盛り込まれていながらもランタイムは90分とタイトであり、ダラダラとしたシネフィル感がないのも特徴。

基本的にストーリーは暴力が言語である男が「有名になりたい!」と願い。それをその暴力性でもってある意味叶えていくというもの。主人公自らがストーリーテラーとして観客に語りかけ、それがそのまま彼の半生をたどっていくという一風変わった作りであり、その辺も『時計じかけ〜』の冒頭を連想させる。権力にたいしても、息をするように暴力をふるうので、普通のシーンでも何をしでかすかわからないという緊張感が張りつめており、まったく気が抜けない。

そのマイケル/ブロンソン(ブロンソンというのは彼のリングネームである)を演じたトム・ハーディーがすこぶる魅力的であり、それこそ『時計じかけ〜』のアレックスくんよろしく、あまりに役のイメージがつきすぎて、この作品以降、こういう役以外演じれないのではないか?という危惧もあったが『ブラック&ホワイト』を観る限りそれは今のところなさそうなのでひと安心である。先ほど例にあげた『キング・オブ・コメディ』のデ・ニーロの怪演をふたたび目撃してしまったようなその衝撃にファーストカットから鷲掴みされること必至。そして、その怪演に負けないように映像もこってりしているというのがおおまかな印象。

少し残念だったのはソフトの画質が妙に悪かったことと、音声が2chだったことで、そのへんもうちょっと気合い入れて作ったれよと思ったが、それは本編の魅力とは関係ない部分であり、『ドライヴ』で、そのこってりとした作家性にノリ切れなかった人もこれならハマるんじゃないかと思うほどの強烈な映画であった。かなりおすすめ。なぜ『ヴァルハラ・ライジング』を公開して、こっちを公開しなかったのか……

ブロンソン [DVD]

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*1:Twitterで教えてもらった