愛すべきバカの失恋『ベルフラワー』

ベルフラワー』をレンタルDVDで鑑賞。

好事家の間ではかなり話題になった作品であり、作品の概要を聞いただけで「これは絶対にオレのための映画だ!(と、同じようなことを思った人は多数いるだろうが)」と公開を待ち望んでいたのだけれど、いつものごとくDVDになるまで待たされ、今に至る。

予告編やティーザーなどでパッと得た情報では「『マッドマックス2』のヒューマンガスに人生を変えられた男が、世界の終わりに備え、改造車や火炎放射器を作る」ということで、それを使ってガンガンと暴れ回るんだろうと勝手な予想をしていたが、映画がはじまると、その予想はあっさり裏切られることになる。

要はこの作品。ひとりの童貞が大恋愛をして、失恋をして、その失恋にもがき苦しむという誰もが共感できる男目線のメロドラマなのであった。

ハレーションしまくり、さらに意識的だろうがやたらとピンぼけした映像にブレまくるカメラ、そして役者を背後から映すなどヌーベルバーグやアメリカンニューシネマのような佇まいで、そこに一人の男の妙にリアルな失恋模様が描かれていく。監督、脚本、製作、編集、そして主演もつとめたエヴァン・グローデルの経験をそのまんま映像にすることで、決して絵空事ではない現実のドラマを作り上げた。よく処女作にはその監督のすべてが出るといわれるが、『ベルフラワー』はその作家性はおろか、エヴァンの人生そのものが刻印されており、ある意味では直木賞も狙える純文学のよう。

それにしてもこの主人公たち、愛すべきバカである。そもそも世界の終わりに備えて改造車を作り、生き残ったメンバーでギャング団を作ろうぜという発想が『20世紀少年』の子供たちのようだ。しかし、このぶっとんだことを考えてる連中に共感した連中がこの映画のスタッフとして参加した(製作し、マイク役を演じた人に至っては、劇中に出てくる火炎放射器をもらうというのが映画の参加条件だったらしい。だってかっこいいじゃん?とは彼の弁)。カメラもろくに持ったことがない人間がカメラを回しているために前述したような映像になったのだろうが、監督自身はそういう映像じゃなければ、失恋したときの喪失感は出せないとわざとその映像で勝負した。役者たちも同様で、エヴァンと同じように経験もなく、どこかで学んでもいないが、とりあえず映画には出たい/俳優になりたいという人たちが集まった。その熱量だけで演じているので、見てるこちらもその勢いに引き込まれていく。特に女優陣は激しいセックスシーンやヌードシーンも堂々と演じており、それが圧倒的なリアリティとなって迫ってくる。

映画の後半は失恋でヤケをおこした男の脳内が延々とコラージュされ繰り返される。現実と妄想が入り乱れるという映像表現は数あれど、この作品のように「浮気した相手なんて死ねばいい、世界なんて滅びればいい、死にたい、でもそれは出来ない」という、ある種、失恋の時に男が思うようなことをそのまんま映像として提供したのはこの作品がはじめてではないだろうか?例えばスガシカオがかつて「かわりになってよ」という曲で「失恋をはげますくらいなら、君が彼女の変わりになってよ」と歌ったように、主人公も女友達に励まされてる途中で、その友達とセックスをするという妄想をするなど、そのへんの本音みたいなものも全部あますところなく登場して、観ていて身につまされること必至だ。

そしてこの主人公と同じく、火炎放射器や車を手作りしてしまう起用な監督はこの映画にすべてをぶつけ、そしてこの映画にすべてを賭けた。試写では散々な結果で、絶望しかけるも、サンダンス映画祭に出品したことで圧倒的な支持を獲得。全世界に配給され、今に至るというわけである(全米での配球権をいち早く獲得したのが今年亡くなってしまったビースティ・ボーイズのアダム・ヤウクで次作の製作にも関わる予定だったとか)。映画ではわずかな希望みたいなものを提示して終わるが、ちゃんと監督のこの経験を映画に活かしてアメリカンドリームを手にしたのであった。

というわけで、賛否もかなりわかれており(公式サイトではトップページに絶賛の声と酷評の声を両方のせるという斬新な試みをしている)、今年のワーストなんて人もいるようだが、『(500)日のサマー』や『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が好きな人にはおすすめ。決してディストピアな世界でボンクラが大活躍!という映画ではないので、そのへんも注意すべし。

ベルフラワー [Blu-ray]

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