武侠映画を新たに蘇らせる傑作『捜査官X』

『捜査官X』をレンタルDVDで鑑賞。新潟では二週間の限定公開でまたたく間に終了していたので見逃していた。それにしてもなんだ、このツタヤ限定レンタルってヤツは。まともに地方での公開が難しい映画くらいはどこでもレンタル出来るようにしていただきたいものである。ぼくは普段はツタヤでは絶対に借りないのだが、これを借りるためだけに久しぶりに行ったら、『フォロー・ミー』や『バンデットQ』やゴダールの『ウィークエンド』が置いてあったり、基本的にレンタル料金が高いからなのか、妙にいろんな作品の在庫があったり……くそう、ツタヤいいじゃないか……

のっけから言うが、この作品をスクリーンで観なかったことを激しく後悔した。

ビッグバジェットのハリウッド大作かと思うほど凝ったオープニングクレジットに、セルジオ・レオーネのような壮大な画角のロングショットを多用しているので、間違いなくスクリーンに栄えるだろうと思ったからである*1

さらに凝りに凝りまくったセット、衣装から小道具まで抜かりなく、完璧なロケハンなどが積み重なって圧倒的なリアリティとスケール感を生むという、まさに全盛期の黒澤映画を観ているような感覚にもなったが、CGもここぞというピンポイントでマンガの見開きのような使われ方をしており、クラシカルでありながら、ダントツに新しい。『イップ・マン』二部作に『孫文の義士団』からの流れだろうが、韓国映画同様、香港映画もすさまじい熱量の傑作が次々に生まれていることを新たに示した作品である。

しかもこの作品。武侠映画の体裁でありながら、ストーリーも見せ方も斬新でおもしろい。

とある静かな村に強盗が二人やってくる。たまたまそこに居合わせたドニーさんは果敢にも犯人に立ち向かって行き、偶然が重なってその二人を殺害。正当防衛が成立し村のヒーローになるが、この事件に疑問を持った金城武が捜査していく内に、これは偶然ではなく意図された殺人であると気づいた。果たしてドニーさんは一体何者なのか?何の目的でこの村にやってきたのか?というのが主なあらすじである。

前半はアクション少なめのミステリーだがドラマ部分、特に役者にたいする演出が見事でそれだけで一気に見せきる。監督が『君さえいれば』や『ラヴソング』のピーター・チャンと聞いて納得したのだが、武侠映画でありながらミステリーの体裁であり、家族ドラマ、ラブストーリー、ミュージカル(なぜかその舞台となった村では心情を歌にするという文化がある)と様々な表情を見せる。

破格なスケールの映像に豊かな演出が噛み合ってる時点で良作なのだが、さすが武侠映画なだけあって、当然アクションシーンも見事。良いプロットに香港製のアクションが加わると傑作になるというのはハリウッドの『セルラー』リメイクである『コネクテッド』で証明されているが、今作では新しい形でそれを提唱することになった。

惜しむらくはその後半のアクション部分になると、そのプロットがやや雑になってしまうということだが、その辺もエスタブリッシングショットを多用/短めのカットで連発することで映画としてのテンションを持続。カンフーも早回しを使うなど、その辺も引っかかったが、香港映画界のドン。ジミー・ウォングというスペシャルなキャスティングにドニーさん自身が○○になることで、過去作へのオマージュもかなりわかりやすい形で登場。武侠映画史を追いかけてきた者としては涙なくして観られないほどのカタルシスが待っている。

というわけで、その雑な部分も含め、これぞ香港映画だというものを堪能させてもらった。個人的には『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『スリーピー・ホロウ』などを彷彿。香港映画はちょっと……という人にもおすすめ。昨年日本で公開された『イップ・マン』や『孫文の義士団』もそうだが、やはりドニー・イェン作品に間違いはない。これからもおおいに期待し、公開を待つばかりである。

早いとこ『処刑剣』と『関羽』も観ないと……

捜査官X [Blu-ray]

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やたらとエスタブリッシングショットが出てくるので環境が揃ってる方は是非BDで観ることをおすすめ。

*1:というか、映画は基本的にスクリーンで映すことを前提に撮られているわけだけども