全米初登場4位も伊達じゃない『ディスコード』

『ディスコード』をレンタルDVDで鑑賞。日本未公開作品。

しばらく絶縁状態であった母がなくなった。アニーは姉に説得され、久しぶりに故郷へと舞い戻る。だが、その母の実家でアニーを呼んだはずの姉と従姉妹がこつ然と姿を消していた……そしてアニーは思いがけない体験をすることになる……というのが主なあらすじ。

アメリカではインディーズ映画ながら初登場4位を記録。それを大々的に宣伝に使うというのはどうなんだと思ったが、なるほど。スマッシュヒットになったという売り出し方は言い得て妙かもしれない。低予算ながら手堅く、そしてしっかり怖いホラー映画の良作であった。

確かに低予算であることは一目瞭然なのだが、演出が非常に上手い。ドクターペッパーの缶を灰皿代わりに使ったり、電話をかけるときにSiriを使ったり、安っぽいマグカップで飲み物を飲んだりと『ヤング・アダルト』を彷彿とさせるようなリアリティ演出が随所に光る。3Dアクションゲームのように主人公を後ろから撮り、カットは長めで、このリズムを基本にしているため、誰も部屋にいない状態でもそのリズムがキープされ、常にその部屋には“何かがいる”という緊張感と怖さが持続する。ステディカムを使ったのか、すべてのカメラワークはゆるやかで目のドアップや超クローズアップで人物の表情を捉え、さらにはシンメトリック気味な映像が頻繁に出てくるなど、キューブリック的なアプローチがあり、全体的な画面の暗さもふくめ、その辺で『シャイニング』も彷彿とさせた。

この作品がおもしろいのは展開がコロコロと変わる点である。

中盤はそれこそ『呪怨』的なJホラー表現でもって驚かせ、さらには『ゴースト ニューヨークの幻』の設定を拝借し、あげくクライマックスは『羊たちの沈黙』のような暗闇での静かな決闘が待っていて、観ているこっちもなんじゃこりゃこりゃなジャンルレス感がたまらない。

その展開同様、下からシャンデリアを映し、それがエスタブリッシングショットとして使われたり、主人公がある事情で狭いクローゼットに押し込められるときはそれをまるまる上から映したり、緊迫感が頂点に達するとカメラがいっきにブレだしたり、妙なところで超がつくほどのスーパースローになったりと撮り方や映像もコロコロ変わりトリッキーである。

さらに役者全員が大変素晴らしい演技で、キャスティングは完璧。特に主役をつとめたケイティ・ロッツの魅力にノックアウト。少し人生に疲れてて、普通の人っぽい感じがリアリティ重視の演出とバッチリ噛み合っていた。

というわけで、ホラー映画が苦手な人にはおすすめできないが(本当に怖い、しかもハラハラドキドキする)、すごくよく出来ているので、興味があるなら是非に。監督の次回作にもおおいに期待したいところである。

ディスコード [DVD]

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