メイキング・オブ・アメトーーク/加地倫三『たくらむ技術』

人気番組「ロンドンハーツ」や「アメトーーク」の演出・プロデューサー加地倫三の新書『たくらむ技術』を読んだ。

ぼくは子供のころからバラエティ番組を見るという行為がとても大好きで、未だに毎週毎週かかさず見ているものが多いが、ブログでそのことについてほとんど書かないのは、単純にどう書いていいか分からないからである(故にバラエティ番組を分析/批評しているブログとか読むとホントに感心する)。

糸井重里も加持プロデューサーとの対談にて「お笑い番組っておもしろさを言葉にしづらいぶん、どう生まれてどう仕上げていくのか不思議です」という前置きを用意していたが、まさにその通りで、バラエティ番組は企画ありきなところと、ハプニングのバランス、どこまで台本で仕掛けているのか?どこまでがアドリブなのか?というのが不明瞭であり、芸人の技量やそれによって生み出されるおもしろいポイントなど、何かひとつに絞って書くにはあまりにも多くの要素が入り込みすぎてるからだ。

そんなぼくが思ってるような疑問、バラエティ番組はどうやって作られているのか?そのことがあますことなく書かれているのが『たくらむ技術』であった。テレビの批評ブログを書いてるような方々、さらにプレイヤーとして出演している芸人/タレントは必読であろう。

単純にこの本は番組プロデューサーがあかす「メイキング・オブ・アメトーーク」であり、企画の立ちあげから、会議、キャスティング、打ちあわせ、本番、編集など、ひとつの番組をつくる行程を丁寧に分かりやすくつづっている。そこに加地プロデューサーの想いや分析、じぶんはこの場でどうしてきたか?というのが差しこまれる。

映画がそうであるように、テレビ番組というのも職人の集まりによって作られているというのがよくわかる本で、特にカメラマンについて記述されてる章は目からウロコ。ひとりひとりの芸人の特性を予習して本番に臨んでいるという辻カメラマンの話には感動すら覚えた。

そして、番組全体を仕掛けているプロデューサーならではの芸人分析がすごい。

こういう芸人だからこそ、こういうひな壇でこういう風に起用するというのはまるでサッカーのフォーメーションのようであり、点を正確に取りにいくための布陣で計算されているんだなというのが分かって、これからテレビを見る目線が一気に変わりそうである。千原ジュニアはそれを察知する能力が早いらしく、すぐにプロデューサーの意図を汲むらしい。つまり「芸人ドラフト会議」に千原ジュニアが選ばれたのは「あれだけひな壇のことを分かっているプレイヤー千原ジュニアがもしひな壇を組んだらどういうことになるんだろう」というような理由なのかもしれない。

少しばかり気になったのは新書という形態で発売したことによる「新書っぽさ(実生活でのアドバイス的な要素)」みたいなものがところどころ入ってきて、それがノイズになるかなというくらいで、テレビの裏側を知るにはもってこいの良書。

テレビ番組や芸人批評しているブログの方々はこの本をどういう風に読んだのか感想を聞いてみたくなってしまった。これでテレビが増々おもしろくなることうけあい、おすすめ。

たくらむ技術 (新潮新書)

たくらむ技術 (新潮新書)