ジャッキーブラウンの元ネタと聞いて観たのだが…『天はすべて許し給う』
『天はすべて許し給う』を鑑賞。
タランティーノが『ジャッキー・ブラウン』を撮るときに参考にしたという作品であり、その一点だけで是が非でも観たかったが、DVDはボックスのみの販売だわ、当然ながらレンタルにはないわで、半ば諦めていた。しかし、こないだのエントリでも軽く触れたシネフィル後輩くんが見事にそれを所有しており、借りて観ることができた。ぼくの中で作品名だけがひとり歩きしている状態だったので念願叶ったといえる。ありがたやありがたや(ちなみに一緒に貸してくれたのがファスビンダーの『不安は魂を食いつくす』でこれ一緒に観れてよかった。感想はのちほど)
金持ちの未亡人とその庭師のメロドラマであり、彼女たちは深く愛し合うんだけど、身分違いの恋に世間は冷ややかな目線を送り、息子たちの猛反対もあって、離ればなれになってしまう……というのが主なあらすじ。
なるほど。古典と呼ばれてるだけあって、様々なメロドラマの原点をここに見た気がする。そもそもストーリーがとても分かりやすく、誰にでもこれは起こり得る話であり、くりぃむしちゅーのANNにマツコデラックスがゲストで出た際、リスナーからの相談ハガキとして、これに近いものが送られてきたことがあった。もっと言えば『東京ラブストーリー』のその後を赤名リカ側から描くとこういう作品になるかもしれない。これをスケールアップさせたものが香港映画の傑作『ラヴソング』だとも思うし、それこそファスビンダーの『不安は魂を食いつくす』や町山さんが指摘しているように『エデンより彼方に』など……ということを言い出したらキリがないのでやめておく。
登場人物たちに寄り添うような優しくも突き刺さる旋律、まるでダンスを踊るかの如く優雅に動くカメラ、ありとあらゆる撮影テクニックが詰め込まれているがウェルズのような気の衒い方ではなく、この物語には必然ではないかというくらいピンポイントで見事な使われ方をしている。仰々しい演技も急転直下な展開(まさに昼ドラ的というべき)も、この話になくてはならない存在であり、90分というランタイムのタイトさも含め完璧な作品だと思った。非の打ちどころがないのである。
さて、この作品。確かにおもしろかったんだけど『ジャッキー・ブラウン』に似ているか?といわれればそんなことはない。実際このDVDを貸してくれたシネフィル後輩くんも「え?あれ?『ジャッキー・ブラウン』の元ネタなんすか?いやー全然違うけどなぁ…」とハッキリ言ってたくらいである。
ただ、作品の随所随所にあらわれる“演出”を見てみると、確かにこれは『ジャッキー・ブラウン』のラストと呼応するものがあると思った。
タランティーノはシーンをまるまるパクるのではなく、ダグラス・サークになりきって「もしサークならこういう風にこの映画を演出するだろう」という精神状態で撮影に挑んだのではないか?それこそコーエン兄弟が『ビッグ・リボウスキ』を撮ったときのように。
これはマキタスポーツの作曲モノマネに近い批評性もあるが、ただ『レザボア・ドッグス』で『友は風の彼方に』のシーンをそのまんま丸パクリした頃から比べると格段に演出が「大人」になっているという証拠でもある(しかし、その反動なのかタランティーノはこのあとの『キル・ビル』でやりたい放題やることになる)。ぼくは『ジャッキーブラウン』がタランティーノの最高傑作だと思うが(よくできているという意味で)、クライマックスまで抑えに抑えた演出がラストの感情の揺らぎと渾然一体となり深い感動を生んでいるのはいわゆるダグラス・サークタッチというヤツなのではないか。
というわけでタランティーノからこの作品を知ったわけだが、実はそれよりもこのあとのフォロワーである『不安は魂を食いつくす』と『エデンより彼方に』がド級の傑作だったので、いずれそのことについても書きたいと思う。鑑賞までのハードルがかなり高い作品ではあるが、様々な世代の人におすすめしたい名作だ。
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『エデンより彼方に』(Far from Heaven)これは、笑えるメロドラマなのです。【ウェイン町山のモンドUSA第14回】 | まちおこし
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