ビン・ラディン暗殺までをダイジェストで『ゼロ・ダーク・サーティ』
『ゼロ・ダーク・サーティ』鑑賞。言わずと知れたビン・ラディン暗殺をテーマにした作品。
3時間弱というランタイムながら、9.11からビン・ラディン暗殺までの歴史を丸々描いているので、まるでダイジェスト版のような早さで駆け抜ける重厚/濃密な一作。延々爆弾を解体し続ける映画『ハート・ロッカー』の監督だけあり、今作も延々とウサマ・ビン・ラディンを追い続けるというストレートな作品で、政治も絡んで少しばかり難しいかなと危惧していたが、フタを開けてみると「テロリストに同僚を殺されたので復讐します」という話でもあったので受け入れやすかった。
「ビン・ラディンの居場所を発見したチームの中心は女性だった」という事実だけを元にキャスリン・ビグローはその女性キャラを創造豊かにクリエイトし活写。自身を投影してるんじゃないかというその造形は『ターミネーター』のサラ・コナーのようだが(サングラスをかけてるところとかそのまんまだったりする)、その監督のジェームズ・キャメロンとキャスリン・ビグローが結婚していたというのがおもしろい。
張りつめた緊迫感の中に緩和があった『ハート・ロッカー』に比べ、今作は緊張の中に緊迫とサプライズがあるという感じで、一瞬たりとも気が抜けない。このタイミングでこう来ますか!というこちらの意表をついた演出により物語の節々をピシっとしめる役割を果たしている。
しかも、それらのサプライズがすべて実際に起きたこととリンクしており、その辺もうまいなと思わせる。見せ方も一辺倒にはならず空撮を使ったり、フレームアウトの直前でことが起きたりと、かなり神経つかったのではないだろうか。メシ喰ってる最中に……というシーンはあまりにビックリして心臓が飛び出すかと思った。実際あの場所にいた人もまさかこのタイミングでと思ったことだろう(あたりまえだが)。そういった生々しさみたいなものが全編にわたってあり、基本的にカメラワークは地味でショットのひとつひとつもあえて映画的ではないようなズレた画作りがなされている。例えがあってるかどうかは分からないがスピルバーグの『ミュンヘン』を観ているようだった。
ただ、本作。ビン・ラディンが暗殺されたことで映画の方向性が変わったというが、当然リアル指向なのでクライマックスになると現場最前線になるため主人公がいないという展開になる。それを取ってつけたようだと判断するか、きちんとリアルにやってていいと評価するかで分かれるであろう。しかし、このクライマックスを入れたことは大正解であり、最後の最後に打ち上げ花火がドカンと上がる。
これだけリアルで緊迫感があり、人間臭いドラマのわりにステレオタイプなキャラクターがいて、定型通りの演技をしているところがあり、そこが少し引っかかったが(いきなり赴任してきて、何して良いか分からず女と電話してる上司とか)、ランタイムで躊躇しているなら間違いなく観にいった方が良い作品。最後の最後に解釈を観客に委ねるようなラストの余韻も心地良い傑作。
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