酔って、ラリって、操縦して『フライト』

『フライト』鑑賞。ロバート・ゼメキス久々の実写映画。久々の実写映画って……

高度3万フィートで飛行機にトラブルが発生。機転をきかせて飛行機を不時着させ、乗客の命をほとんど守り、奇跡のフライトを成し遂げた機長。ところが彼はフライトの前にコカインをキメ、さらに酒も飲んでいた……というのがあらすじ。

映画的な山場が前半の方にあり、その後の経過をしっかり描くという意味では同監督の『キャスト・アウェイ』と似ており、あれの無人島に行かない版という感じ。飛行機にトラブルが発生し、なんとか不時着させるというハリウッド映画ならではのプロットだが、これが事実に基づいていたというのだから驚く*1

さて、予告編を観る限りは『フォレスト・ガンプ』系の感動大作のようにも見えるが、なんとこの作品。とんでもなく品性下劣なハイテンションムービーであり、あまりのすさまじさに笑ってしまうほどである。実際ギャグとして撮ってるシーンも最後のほうに出てくる。

冒頭からしてすごい。いきなり素っ裸のねーちゃんが画面にドーンと現れたと思いきや、主人公は朝っぱらから夕べの残りとおぼしきビールを飲み、さらにコカインをキメてテンションがアップ。パイロットの恰好で飛行機に乗り込み、悠々自適に出発。乱気流を見事にかわすと、乗客に挨拶しながらオレンジジュースの中にウォッカのミニボトルを放り込み、グビグビと飲み干す。そして上記のようなトラブルがあり、その後も描かれるのだが、基本的にはデンゼル・ワシントンがロックンロールの名曲を聞きながら酒をガバガバと飲んでいるだけである。ホントにそれだけ。その飲みっぷりは『リービング・ラスベガス』のニコラス・ケイジを彷彿とさせ「この時代にここまでやるか」と惚れ惚れするほど。実際映画はPG-12を見事に勝ち取った。

この作品がおもしろいのはほとんど主人公の主観で描かれるという点だ。

レオーネの『ウエスタン』の逆をいく、上から下へとカメラを動かすエスタブリッシングショット(しかも雨が降りまくり)など映像的に驚かせてくれるところもいくつかあるが(この辺3Dアニメをやったのが良い方向に現れている)、基本的に飛行機不時着シーンでもほとんど外側からの画はなく、誰かが墜落の瞬間をiPhoneかなんかで撮ってたというリアルな映像がしれーっと映し出されるだけで、それ以外はほとんど人間ドラマとして、役者の演技にスポットを当てている。後に一緒に暮らすことになる女性のシーンこそ目線が離れるが、あとは主人公の心情に観客がシンクロしていくことになる。

要するにこれは「キリストはワインを飲んでいた」的な話でもあり、彼はドラッグをキメ、酒を飲んでいたから奇跡を起こせたのか?犯罪者として罰せられるべきなのか?を主人公の行動に重ね合わせることで観客に委ねる作品でもあるのだ。実際、ラストでとってつけたような感動が予想もしないタイミングで出てくるが、その後の「あなたは何者なんですか?」というセリフが非常に興味深く。妙な余韻を残してくれる。

というわけで、映画ってのはセックス、ドラッグ、ロックンロールだよと思ってる方は必見。もちろん主題が主題だけにそれが前面に押し出されているわけではないが、この規模でこの売り出し方でこの内容かよ!と感動を覚えた。傑作。

*1:3つくらいの事件を組み合わせているらしい→http://www.youtube.com/watch?v=FnrakHvYsv4