考えうるかぎりもっともマシなろくでもない作戦『アルゴ』

『アルゴ』をレンタルDVDで鑑賞。

1979年イラン。イスラムの過激派がテヘランアメリカ大使館を占拠し、52人の外交官が人質に取られた。だが、身の危険を察知した6人の外交官が大使館から脱出。カナダ大使公邸に匿われる。彼らを空港からしっかり出国させるためにはどうすればいいか?そこで浮上したものは「アルゴ」という架空のSF映画のロケハンに来たことにするという「考えうるかぎりもっともマシなろくでもない作戦」だった……

プロットだけ聞けばコメディ映画のようにも思えるが、これが事実を元にした人質救出劇だというのだから驚く。“事実は小説より奇なり”とはよく言ったものだ。しかし、これほど映画化に相応しい作品もそうないだろう。

冒頭、アニメとフリーズフレームを使って、映画の歴史的背景を説明し、かなり重厚な映画なのかと思わせるが、映像はやや軽く、色調も70年代映画風の発色でオープニングのワーナーのロゴでさえも昔の物を使うという徹底ぶり。しかし、ドヤ顔でその時代を完璧に映像にしてやったぜーというデイヴィッド・フィンチャーとは違い、あくまで衣装や美術などで細かく再現。ややブレたカメラがメインであり、その相乗効果もあってかハンドメイドな温もりを感じる。

さて、この作品。前半が架空の映画を作り上げるプロセスを描いており、それがそのまんま『アメリカの夜』や『ザ・プレイヤー』のようなメタ視点になっていることが特徴的で、どのように映画を製作し、どのように売り込み、どのようにマスコミにアピールするか?というのが軽妙ではあるがわりと順序を追って描かれる。

そして、後半は人質を救出するために動き出すわけだが、冷静に考えると「ある人物たちを敵国からバレないように自国へと救出させる」というプロットは『隠し砦の三悪人』とモロかぶりであり、しかもラスト「スターウォーズ」への目配せがあるあたり、もしかしたらかなり意識しているのかもしれない。

もちろん登場人物たちはお侍さまではないので、チャンバラもなければ馬に乗ってはいよーということもない。映画の中で起こってることはかなり地味で動きもなく、ただただ飛行機に乗るだけで、事実に近づけたかったのか、演出自体もかなり全体的に抑えてある。しかし、それに比例するかのごとく映像と音楽のテンションはものすんごく高い。ここに映画的な快感/魅力が詰まってるといっても過言ではない。

特にクライマックスの編集、映像、撮影、演出、演技は見事。完璧だったと言ってもいいだろう。セリフもなく表情だけで心情を伝え、カットバックによって緊迫感を生み、カメラをぶん回すことでスピード感を演出し、音楽で盛り上げる――――これが映画の魅力なのだ。

というわけで『アメリカの夜』と『隠し砦の三悪人』がたった一本の映画で楽しめる『アルゴ』は傑作。イラン側の描き方がやや一辺倒だったりもちろん問題点はあるだろうが、それらを吹き飛ばすストーリーのおもしろさに感服した。ベン・アフレック監督作にはこれからもおおいに期待したいところだ。アルゴくそくらえ!!!

アルゴブルーレイ&DVD (2枚組)(初回限定版) [Blu-ray]

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