天使の街に蔓延る悪魔みたいなもの『L.A.ギャング ストーリー』
『L.A.ギャング ストーリー』鑑賞。
ティーザーをはじめて見たときから、あの大傑作『L.A.コンフィデンシャル』を彷彿とさせ、しかもジョシュ・ブローリン、ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ニック・ノルティ、ロバート・パトリック、ジョヴァンニ・リビシ、ショーン・ペンといった“分かってる”キャスティングもあいまってかなり楽しみにしていた。
時は流れ、予告編が公開されると、数年前に発売され大コケしたロックスター社の『L.A.ノワール』っぽい雰囲気を勝手に感じとった。この時点ではゲームはプレイしていなかったのだが、実際プレイするとゲームの映像と予告編の感じが見事に一致していた。良い意味でも悪い意味でも箱庭感のあるゲームっぽい原色際立つ軽いタッチの映像だったのだ。
しかも監督はルーベン・フライシャーである。その軽さは『ゾンビランド』で証明済みだ。これと同じようにノワールという特殊なジャンルをポップでキッチュなポップコーンムービーに変えられてしまうのかな?と予想したが、この予想は見事に的中する。
『L.A.ギャング ストーリー』の中身のなさ、まがいもの感、さらには悪い意味でのスタイリッシュな感じは群を抜いていると言ってもいい。
冒頭で人間が真っ二つに引きちぎられたり、女優志望の女をだまくらかして娼婦館に連れ込むなど、これは!!と思わせるが、そこからはその要素は薄まり、基本的に汚職警官らしき人がいるにはいるのだが、警察は徹底して正義の人間として描かれ、敵対するミッキー・コーエンはステレオタイプなベタなギャングの親玉として描かれている*1。ファム・ファタール的なエマ・ストーンもショーン・ペンとライアン・ゴズリングの間を行ったり来たりするが、二人のことを手玉にとってる感じはなく、逆に男に運命を委ねてるようなひ弱なキャラになりさがっているし、ジョシュ・ブローリンもずさんな計画を勢いで実行するというマヌケであり、強盗のマネごとをして捕まったあとのやりとりなんかはコメディ映画を観ているようだった。このことからもわかるようにノワールに必要不可欠な要素はバッサリ抜け落ちている。
それでもどこまで意識したのか分からないが『黒い罠』的な長回しや『サンセット大通り』を彷彿とさせるプールの中から死体を映すシーン、さらには“チャイナタウン”をそのまま舞台にするなどノワールへの目配せみたいなものがあり、『アンタッチャブル』よろしくクライマックスでは巨大な階段も出てくるが、これらもオマージュとして使っているのかどうか疑わしい。そもそも監督お得意の空間が歪むほどのモーション感覚みたいなものが、その疑わしさに拍車をかけている(このジャンルにはあわない気も……オープニングとかですればキマったかもしれないが……)。『L.A.ノワール』は実際の事件をベースに過去の様々なノワール映画からいろんな要素を加えてゲームにしているが、それをベースにまた映画として実写化したような印象すらある。
しかし、良くも悪くも「ジャンル映画をポップでキッチュなポップコーンムービーにする」という手腕こそがルーベン・フライシャーの作家性だと言い切ることもできるのだ。シングルモルトが飲みにくいからブレンデッドの“WHYTE&MACKAY”をすすめたのに、これだけでもキツいと言われたので、しかたなく大きめのカクテルグラスに移し、氷を入れて炭酸水で割って出したみたいなことである。好き者にしてみたらそんな飲み方はウイスキーの味を殺す邪道な飲み方だと言われてしまいそうだが、それはそれで別な飲み物として飲めてしまう……そんな映画だという風に感じた。この感じは『ゾンビランド』にもいえることではあるが……
というわけで、『ゾンビランド』がおもしろかった人にはおすすめ。個人的には『アンタッチャブル』が大好きなので、仲間が集まっていく様子や男たちの仕事っぷりに燃えた。役者のアンサンブルを観てるだけでも元はとれるかと。楽しかったですよ。ええ。
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*1:こちらを参照のこと→http://togetter.com/li/497261