ロンハーのドッキリみたいな映画『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』

『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』を鑑賞。

地味にこのブログで紹介したシネフィル後輩くんとこないだコメダ珈琲店とビックボーイをはしごし、映画に関する雑談をしつつ、オールタイムベストを選ぶという遊びをした。

彼は『コックファイター』や『ヤング・ゼネレーション』、『カリフォルニア・ドールズ』、『ブルーベルベット』、『ランド・オブ・プレンティ』などをあげた。これらに共通するのは「何かに取り憑かれたようにある物事にたいして関心を抱く」というもの。

オールタイムベストは人格表明であるとはよく言ったもので、普段ブレッソンアンゲロプロスファスビンダーなど観ていてもこういうところに本性が出るのである。最後の最後で『ライフ・アクアティック』も入りますわーと言っていたが、そのあらすじを説明させたら、やっぱりどこか似たようなテイストが入っており、またか!と恥ずかしがっていた。ちなみに彼は『スパイダーマン2』もベストにあげており、奇怪な一手を打ってくるなと思ったが、説明されるとやっぱり彼の人格を表すような理由が返ってきて、こういう映画好きな人のオールタイムベストを聞くのはおもしろいもんだと改めて思ったものだった。

そのときに一番か二番かは忘れたが、わりと早い段階でタイトルがあがって来たのがジョン・カサヴェテスの『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』であり、タイトルだけは知ってたんだけど、内容を聞いたら大変おもしろそうだったので彼から借りて観ることができた(私信、いつもありがとう)。

クレージー・ホースというストリップバーを経営しているコズモ・ヴィテリ。彼はすべてのショーの演出から経営まで携わるワンマンオーナーだ。店の借金を返したことによる安堵感からか、彼はギャングが経営する賭博場で見栄を張り、その勢いですさまじい額の借金をつくってしまう。最初は踏み倒してやると意気込んでいたのだが、徐々に彼を脅かしていくギャングたち。結局、その借金の返済の代わりに彼は敵対するギャングのボス“チャイニーズ・ブッキー”を殺せと命じられる……

順風満帆な人生から一瞬にして奈落の底に突き落とされ、さらに思いもしなかった犯罪や殺人に加担し、逃げるに逃げられなくなるというベタなノワールをドキュメンタリータッチで描くという一風変わった作品。2時間13分のランタイムだったが、観客が総じてつまらないと言い、大コケして、公開6日で1時間47分に再編集され新たに公開。しかし、その幻の「完全版」が観たいという気運が高まり、WOWOWでひっそりと放送されたという逸話をネットで目にしたが、確かに物語に関係ないシーンが異常に長く、各シークエンスもわざと間延びされているため、みょうちくりんな緊張感が持続する。ドライでデタッチメント、そして徹底したリアリズムが全編を貫くが、カメラが動くところはとことん動き、そのざらついたフィルム感もあってか夜の映像はさながら『タクシードライバー』や『死刑台のエレベーター』のよう。ベン・ギャザラも『ガルシアの首』のウォーレン・オーツや『ロング・グッドバイ』のエリオット・グールドに並ぶ、男惚れするかっこよさ。彼を見るための映画だといっても過言ではない。

さて、この作品。なぜか要所要所で隠しカメラで撮ってるような雰囲気の映像を使っている。電話するシーンや車の中の密談など、カメラが筆写体に異常に接近。それはカメラの存在に気づかず、その前でやりとりしているドッキリ番組のようであり、加地Pはじめ、ロンハーのスタッフがこれを観てるかどうかは分からないが、海外に行って映画さながらのスケールでドッキリをしかけるときの映像の感じとこの映画の雰囲気はよく似ていて、もし、これと同じ設定でドッキリをやるならターゲットは出川哲朗だろうなぁとかそんなことを思いながら観てしまった。

話を冒頭まで戻すが、恐らくシネフィル後輩くんはこれを「どんなことがあってもクレージーホースに執着し続ける男の話」として観たんだろう。それはカサベテスにとっての「映画」であることは容易に想像がつく。確かに映画はドライであるが、身を持ち崩してしまっても、オレはオレの作り上げた芸術を守るんだという気概を感じた。しかし、その内容とはうらはらに、ヒットしなかったことで作品をズタズタにされてしまうというという現実………

というわけで、予想だにしてない方向からオールタイムベストに食い込むくらいの傑作を観てしまったという感じだが、ただ、これはあくまで外側の知識を含めての評価であり、『グロリア』のようなエンターテインメントを求めると、タルいなーと感じてしまうかもしれない。実際ぼくはすごく好きな映画である一方でその短縮版が観たくなったくらいだ。

あと、この映画は「ハゲてもおっさんになってもかっこよくなれるんだ!」ということが証明されているので、シャンプーをするたびに髪がごっそり抜け落ちているぼくのような人は勇気をもらえること必至。シネフィル後輩くんしかり、ある一定の人間にとって心に響く、そんなカルト的な映画である。おすすめだ。

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