勝手に逃げろ!人生!『ザ・ドライバー』と『ウォリアーズ』

ウォルター・ヒルという名前を意識しだしたのは脚本を手がけたサム・ペキンパー監督の『ゲッタウェイ』を観てからだと思うが、脚本家の名前はおろか、俳優の名前すらあまり覚えられないぼくが、その名前をなんとなくインプットできたのは、その字体が無意識の内にすりこまれていたからだと思う。

実際、フィルモグラフィを調べると、子供のころからTVやレンタルなんかでなんとなく観てる映画の監督をたまたま彼がしているということが多いことが分かった。『ストリート・オブ・ファイヤー』はオールタイムベストだ!という人におすすめされて観たし、『48時間』や『レッドブル』は子供のころに死ぬほどTVで放映していた。ロバート・ジョンソンの伝説を映画用にリライトした『クロスロード』は10年以上前に東京でスタジオミュージシャンをしている友人から教えてもらって観たし、『ラストマン・スタンディング』もあの黒澤の『用心棒』を許可とってリメイクしたのか!という理由で観ているなど、ウォルター・ヒルが撮っているからという動機で観ているものは皆無だった。

そんな偶然出会う率が高いウォルター・ヒル監督の中でも最高傑作の呼び声高い『ザ・ドライバー』と『ウォリアーズ』がツタヤの発掘良品にあったので思わず手に取って一気に観た。

ザ・ドライバー』は名前のない寡黙な逃がし屋がすさまじいドライビングテクニックを駆使し、夜な夜な強盗を逃がして逃がして逃がしまくるという映画だ。去年日本でも公開され話題になったニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』にインスパイアを与えたと言われているが、この作品は、何かから逃げる/何かを追いかけるというプロット上の「動き」になる部分が全部カースタント/アクションに置き換えられているというとてつもないスピード感の映画である。映画のなかで起こってることや心情などは事件を追う刑事と主人公に仕事を斡旋する女が喋りたおしているので、他のキャラクターはほとんど言葉を発しない。

夜の街をなんとも艶かしく撮影しているが、この映像の感じは後の彼の映画でも意識的にかっこよく使われている。これを基調にノワール調だったり、展開がハードボイルドだったりと、ケイパーものでありながら他ジャンルへの目配せも忘れない。後半の列車でのやりとりはヒッチコックの『北北西に進路を取れ』のようでもあった。井筒和幸監督も『黄金を抱いて飛べ』を撮影する際、参考にしたと言ってるくらい濃厚で骨太。男の中の男におすすめしたい映画である。

『ウォリアーズ』はウォルター・ヒルが好きな後輩におすすめされており、いつかは観たいなと思っていたのだが、夜中のドンキホーテに群がってるようないわゆるDQNばっかり出てくる映画だという知識だけはあり、どうもそういうのはなぁ……と食指が伸びずに今日までいたるのだが、観てみたら超大傑作でぶったまげた。

ある日、ストリートギャングたちによる集会が行われた。彼らを実質仕切ってるサイラスという男が戦争終結を謳いだしたのだが、その演説中に射殺される。駆けつける警察たちから逃げるストリートギャングたち。そんなドサクサにまぎれ、射殺したグループの実行犯から「撃ったのはヤツらだ!」と濡れ衣を着せられた“ウォリアーズ”たち。その噂は瞬時に広まり、彼らは緊迫した一夜を迎える………

敵だらけの街をあの手この手(といっても、殴ったり、走ったり、電車に乗ったり、隠れたりするだけだが……)をつかって突破するというウォルター・ヒル流の『隠し砦の三悪人』。時間を一夜だけに限定し、途中で敵グループの女が加わったり、様々なトラップが用意されていたりと、どんどんスリリングになっていく。基本的に移動は徒歩と電車。しかも自宅までとりあえず帰っとけというだけなのだが、これがものすんごくおもしろい。主人公たちは総じてバカだが、そのボンクラさ加減も観てて共感できる部分だった。

奇しくもだが、この二本は主人公がとにかく逃げて逃げて逃げまくるという作品である。そういえば注目を集めた『ゲッタウェイ』も主人公が逃げ続ける映画であった。全部観たわけではないが、ウォルター・ヒルにはそういう願望みたいなものがあるのかもしれない。逃げまくる映画が好きな人は是非ツタヤに足を運んでみてはいかがだろうか。

ちなみに『ウォリアーズ』観たよーとツイッターに書いたら三人の人から「ベースボールフューリーズが最高ですよね!」と言われた。カルト的な映画であることは重々承知しているのだが、なぜベースボールフューリーズなんだろう。それだけが謎である。

ちなみにこれがベースボールフューリーズ

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