サイケで前衛的なハードボイルド『殺しの分け前/ポイント・ブランク』

殺しの分け前/ポイント・ブランク』鑑賞。

記憶がさだかではないのだが、その昔、WOWOWに入っていたころ、『キッスで殺せ』とおなじような時期に放送されたのを観たおぼえがあり、それっきりお目にかかってなかったが、メル・ギブソンの『ペイバック』がこの作品の原作を再映画化したものだと知ってから見返したいなぁと思っていた。

難解な映画がリメイクされることで、意外と元の映画への理解が深まるということがある。たとえば『ベルリン・天使の詩』なんかはまさにそうだと思うし、ちょっと前にミュージカルとしてリメイクされた『8 1/2』も監督の頭の中が断片的にコラージュされたものだったので、時系列順に起こったことを並べ変えただけで、こんな話になるのか!と納得して帰った覚えがある。

殺しの分け前/ポイント・ブランク』もそういう映画のひとつだといえる。

ツタヤの発掘良品で見つけて速攻借りてきて再見したのだが、なるほど、細部にわたって思い出せないのもなんとなく理解した。

まぁ、とにかくこの作品。確信犯的にわけがわからないつくりであり、これを観たあとに『ペイバック』を観ると、あまりのシンプルさに、じゃあまえに映画化したのはどういう理由があったんだよ!と言いたくなるくらいである。

そのわからなさっぷりが発揮されるのは開始四分。もうこの映画は難解であるということを所信表明するかのごとく、タイトルが出ると同時に主人公が独房とおぼしきところで撃たれてたおれる。そこまでは分かるが、この撃たれた瞬間に撃たれるまでの経緯を回想しているのか、それが走馬灯のようによみがえったかは分からないが、その回想らしきシーンと、時制的にそのあととされてるであろう「過去」にあたる部分と、撃たれる直前までの「現在」が入り乱れて編集されている。

観ているほうとしては主人公が撃たれるシーンで始まるため、いきなり度肝抜かれるわけだが、そのあとのグチャグチャさに混乱すること必至だ。そして、なにがなんだか分からないまま観ていくと、こんどはその撃たれたシーンがまた二分後に唐突にあらわれるというわけのわからなさ。

そのひっちゃかめっちゃかな編集のまま映画はすすみ、何かをどっかから強奪したようなシーンが挟み込まれるのだが、これまた襲撃シーンがないため、実際なにをしたのかはよくわかってない(もしかしたらこのへんは『レザボア・ドッグス』に影響与えたのかもしれない)。さらにだれかを撃ったり、なにかをなぐったりするたびに、似たようなシーン/カットがインサートされるので、いったい主人公はなにを考え、なにを思って行動しているのか、はたまたなにを回想しているのかよくわからない。もちろんこれは意図的なものだといえる。

じゃあ、この映画。そんなにぐっちゃぐちゃなら、わけがわからなくてつまらないじゃないかとなるはずなのだが、そんなことはなく、実際ものすんごくおもしろい。

まず、この難解さは30分くらいで一気に鳴りを潜め、組織から払ってもらえない金を執拗に請求する男のはなしになる。もちろんサイケデリック全盛ということもあり*1、原色飛び交う派手なセットや風呂場で色のついた香水がまざって独特の色彩になるのを延々映したりと、その片鱗は見られるが、そういったプロダクションデザインを抜かせば、激シブなリー・マーヴィンが活躍するいたって普通のハードボイルドである。ブツっと尻切れトンボのように映画は終わるが、そのあとの話が冒頭のシーンにつながるなど、いちおうひとつの物語としては腑に落ちるかたちになるのもほかの前衛映画とはちがう点だろう。

しかし、枠がある程度決まっている作品のなかでこれだけアヴァンギャルドに攻めた映画はそうない。『東京流れ者』にすごく似ていて影響があるのかと思いきや、なんと公開はこの映画の一年前であり、いかに鈴木清順が時代を先取りしていたかが分かる。

Twitterにこの映画のことを書いたら「オールタイムベストに入れるくらい好きです」というリプが飛んできたりしたが、実際ぼくもかなり好きな映画である。むしろ傑作だと思う。クラシックであることに取り憑かれてた映画会社の重役がサイケな映画を求める時代に迎合した結果生まれた奇妙なエンターテインメント。Amazonには売ってないみたいだが、どういう仕組みなのか、先ほども書いたようにツタヤには発掘良品というコーナーにレンタルで置いてあるので、興味があるならチェックすべし。

殺しの分け前/ポイント・ブランク | 映画の動画・DVD - TSUTAYA/ツタヤ

*1:恐らく難解な編集もこのへんのムーブメントにあやかったものだと町山智浩も映画塾で指摘していた