10年早かったと思い知らされる傑作『ゼルダの伝説 風のタクトHD』

つい先日発売されたWii Uの『ゼルダの伝説 風のタクトHD』を友人宅にて軽くプレイした。

最近、過去作のグラフィックを強化して、新しく販売し直すというのがゲーム業界で流行っているが(映画におけるリメイクとは意味合いが少しちがう)、この『風のタクトHD』は映像の美しさを堪能すると同時に「あ、そもそも『風のタクト』というゲームは10年早い作品だったんだな」ということを思い知らされた。

64以降、任天堂のハードはクリエーターが表現したいことを最優先したスペックになり、サードパーティーを拒むように独自の路線を歩みだしたきらいがある(任天堂のハードではソフトが作りにくいなんて話もチラっと聞いた)。そんなある種、技術屋集団の側面を見せるところがあるのに、ことHDに関しては他社から一歩遅れをとった形になってしまい、せっかくクオリティの高いソフトを出してもその解像度によってHDのテレビに映すと映像がぼやけ、それが他社のハードに比べストレスとなっていた。これはフルHDのテレビでDVDを観るのとBDを観るのくらいの差があると言っていい。

そんな任天堂がまんをじして(というか遅すぎる)、スペックをさらに強化しHD対応のハードを制作した。ところが遅れを取った分、その美しさたるや筆舌につくしがたいものがあった。

特にこの『風のタクトHD』はそのスペックを存分に活かした作品であるといえる。

元々ゲームキューブで発売された『風のタクト』のグラフィックは異常なほどクオリティが高かった。賛否両論あったとはいえ、アニメっぽい画のキャラクターを自由自在に操るという意味では当時からグンを抜いていた。船で移動するのがながいとか後半のトライフォース探しがめんどくさいなど、ゲーム性やそのバランスは置いといても、プレイしてこれほどまでに楽しいと思わせる『ゼルダ』は他になかった。

故にこれをそのまんまHD化すれば、現在でも通用するようなソフトになるに決まっているのだ。

ゲームキューブのころから顕著だった光と影の表現が別物といえるくらいにパワーアップ。平面であることを意識したオリジナル版に比べ、このHD版は二次元のアニメの中において、平面を意識しながら立体的な空間を表現するという不可能に挑んでいる。

パッと見、切り絵を貼ったような画作りで原色も多く、リアリティという部分においては欠如しているが、そこには風がそよぎ、光があふれ、空気があり、影がある。こういう言い方はアレだが、ゲームのなかに「世界」が息づいてる感じはこれまでのなかでもダントツ。この箱庭作りのうまさは任天堂お家芸だが、そのうまさを最大限引き出すことにこのリメイク版は成功した。特に影の表現がすばらしく、このリメイク版をプレイしてから、普通に街に出ると「ああ、ホントに街というのは影が多いものなんだなぁ」と改めて思ってしまうくらいである。さらにHD化したことによりダンジョンが今まで以上の広がりを見せ、高い場所はホントに足がすくむほど高く、落下すると思わず声がでてしまった。

さらにこのHD版はWiiリモコンによる操作ではないというのもポイント。

液晶がGamePadについていて、アイテムの入れ替えはここで行う。以前は画面をポーズして変えていたのだが、このストレスがなくなった。さらに何か的を狙うというシーンでもGamePad自体を動かすと画面と連動するため、リモコンでポイントを合わせるというのが今度はストレスに感じるくらい直感的なプレイが出来るようになった。ファミコン黎明期のとき、マリオがジャンプするのに合わせ、コントローラーを上にあげる人がいたが、あれをそのまんまやるみたいなものだろう。ぶっちゃけ、ぼくはWiiのリモコンを振ると、リンクが剣を振るという操作に飽きていたので、ボタンを押して剣をビュンビュン振るというスタイルに一時的とはいえ戻ったことが嬉しかった。

というわけで、以前『風のタクト』をプレイしたことがあるひとはもちろん、そうでないひとにもこの感動を味わっていただきたい。美しい映像を提供し、ムービーが長かったり、おつかい的な作業を延々するゲームが増えてきたこの昨今。ゲームのなかの世界でキャラクターを動かすだけで楽しいという感覚にふたたび喜びを覚える素晴らしいリメイク作である。というか、そのゲーム性がまったく色あせてないことがすごいと思った。

ゼルダの伝説 風のタクト HD - Wii U

ゼルダの伝説 風のタクト HD - Wii U