もうちょっとだけ評価されてもいんじゃね?『カジノ』

スコセッシの『カジノ』を十数年ぶりに観たのだが、とてつもない映画でぶったまげた。正直、印象が薄く、なんかシャロン・ストーンがわーわーいうとるなーくらいしか覚えてなかった。実際観たら、サイコロをなんかの機械でくるくるくるーってするシーンしか覚えてないという体たらくだったが、それもそのはずでこの作品。ストーリーそのものよりも映像にインパクトがあり、映画見始めの小僧っ子は映像テクニックなんぞ知るよしもなく、ストーリーだけで映画を観ているわけで、そりゃ印象も薄くなるわと思ったのだった。

『グッド・フェローズ』の方法論をそのまんまマフィアではなく、ラスベガスの人間関係に置き換えた一代記。

その『グッド・フェローズ』はプロトタイプだったかというくらい映像のテンションが高く、長回し、クレーンショット、アイリスイン、360度パン、オーバーラップによるジャンプカット、シャロウフォーカス、俯瞰ショット、空撮など、ありとあらゆるテクニックがこれでもかと詰め込まれている。画面設計は異常というくらい凝っているが、ものすごいスピードでカットを割っていき、なにげないシーンもまるでクライマックスのように演出される。ポール・トーマス・アンダーソンの『ブギーナイツ』や『マグノリア』はこの作品の影響が大であろう。特に『ブギーナイツ』はこれをこのまんまポルノ業界に置き換えた作品のようにも思える。

テンションが高いのは役者の演技も同じことでジョー・ペシは全編「何がおかしい?」級の演技をしており、つねに怖い。シャロン・ストーンもいままでのお色気だけの感じではなく、しっかりと役をモノにしている。全体を俯瞰するキャラクターはおらず、それぞれがそれぞれの一人称でそれぞれのエピソードを語り尽くすだけの構成で、物語らしい物語は流れない。ナレーションも多く、キャラクターはつねに早口だ。

スコセッシといえば?と聞いてもあまりこのタイトルがあがってこないような気がしたが、それは『グッド・フェローズ』の影に隠れてるからだろうか(filmarksやみんなのシネマレビューを見ても、長すぎるとか、これならグッドフェローズの方がいいとかそういう感じのが目立つ。もちろん、絶賛してる人もいくつかあるが)。とにもかくにもこういう映画を撮らせたらスコセッシの右に出る者はいないと改めて感じた。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』もこんな感じのテンションで撮られていたら間違いない作品だと断言できる。楽しみだ。予習としてひさしぶりに観ているのもいいだろう。

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