映画というのは80年前から変わってない『M』


1930年代のベルリンを震撼させた幼女連続誘拐殺人事件。ありとあらゆる観点から捜査するも一向に犯人が捕まる様子はなく、この事件のせいで警察が街に徘徊し、思うように犯罪ができなくなった組織が自らの手で犯人を捕まえようと画策する……

「好き/嫌い」は別にして世界的な名作っていうと『市民ケーン』『東京物語』『2001年宇宙の旅』『めまい』などがあがるが、なぜこのタイトルがいのいちばんに出てこないのか不思議なくらいの超大傑作。サイコスリラー/フィルム・ノワールの元祖にして極北。ひとつの犯罪を通して、その時代/社会を表現するという意味では2007年に公開されたデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』に先駆けているともいえる。

この映画が素晴らしいのは、ここで使われた撮影テクニックが未だにスタンダードなものとして、もっといえばスタイリッシュなものとして受け継がれてるという点。

中盤、怒濤の長回しからカメラがガラスを突き抜けて、そのままトラックアップしていくっていうショットがあるが、あれは去年公開されて話題になった『ゼロ・グラビティ』にも発展系として、いまだに「センス・オブ・ワンダー」であることが証明された。もちろんこちらはCGによって宇宙服のマスクにあたる部分を突き抜けるわけだが、基本的な発想は変わらない。

短めのオーバーラップでもってことの顛末を表現したり、犯人が走って逃げるシーンは手持ちカメラになったり「え?もうこんなことしてたの?」っていうテクニックが連発される。しかもそれがメインじゃなくて、このシーンにはこれが合ってるからという理由で使ってるあたりもニクい。使うべくして使ってるというか。これみよがしじゃない。

クライマックスの舞台劇みたいなのが個人的に好きじゃないんだけど、時代が時代なだけにフリッツ・ラング初のトーキーということでそれを鑑みるとこの展開もなるほどと納得させられる。しかもその期待を一身に背負ったピーター・ローレの熱演が素晴らしく、彼の演技に圧倒される(作品としてのテンションとテンポが急落するんだけど、それを役者の演技で補っている)。

もちろんこれ以前にこういうテクニックをたくさん使った映画というのは存在するんだろうが、名作というのはその時代性もあって、今見ると肩すかしをくらうものも多く正直なめていた。いやぁやはり古典っていうのは知って損ないなと実感した。ウェルズ、デパルマ、スコセッシ、フィンチャー、キュアロンみたいな映像テクニックの連打でみせる映画が好きな人におすすめ。

M (エム) CCP-271 [DVD]

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