主人公が妄想する理由がない「理由」とは…『LIFE!』
『LIFE!』を試写会にて鑑賞。Twitterでも結構な人数が観ていて、どんだけの率だよと思った。TLにあれだけいたのは珍しいことだったかもしれない。
原題の『The Secret Life of Walter Mitty』でピンとくる人もいるだろうが、1947年に公開された『虹を掴む男』のリメイク。正確にいうと同名小説の再映画化ということになるらしい。オリジナル版は未見で、さらになんの情報も入れずに観にいったのだが、予告編はおろか、そういう宣伝もしてなかったので知らない人のほうがほとんどだっただろう。
LIFE誌を発行する会社で長年ネガの管理や現像を担当していた男が主人公。インターネットの普及に伴いデジタル化するという理由にて休刊が発表され、そのラストの表紙を飾るにふさわしい写真が写真家から届いた。ところが指定された番号のネガが紛失。こんなことは今までになかったことだと、その写真家を探すため、主人公は旅にでる……というのが主なあらすじ。
妄想癖のある主人公の考えてることが近いかたちで現実になり、それを自らの意志で乗り越えることである種の「大人」になっていくという、いわゆる「通過儀礼」の物語。フィックスで捉えるロングショットや極端に横移動するカメラなど、主人公が普通の精神状態ではないことを前半は画で表現しており、徐々に躍動感が溢れだすことで自らの殻を打ち破るという展開とつながっていく。故に主人公はあまり多くを語らず、説明も極端に少ない。CGをふんだんにつかったあり得ない妄想シーンをメインに打ち出してるようだが、伏線のはり方が見事でそれがどんどん回収されていく気持ちよさがこの映画のキモだろう。もちろんベン・スティラーらしいギャグやパロディはあるもののいくぶん抑えめになっている。
今回この作品を観たときに謎だったのが、主人公が妄想に逃げる理由がひとつもないことだった。
別に仕事ができないわけではなく、むしろ写真家からも信頼され、支えてくれる家族がいて、主人公はまったく不幸には見えない。別に普段から妄想に逃げ込まなくてもいいのにと思って観ていた。普段人は唐突にありとあらゆるところで妄想や空想するわけだが、普通の映画ならば妄想はそのように使われる。
オリジナル版では主人公は上司にイヤミを言われ、家族には冷たくされ、そこから逃げる術として妄想するという設定らしく、愛する人のために現実に立ち向かい、それを乗り越えることで成長し、見事なハッピーエンドを迎える。
リメイク版はオリジナルの設定とはすべてが真逆であり、このようなことが起こったと考えていい。それはラストにもいえることだが、その改変が今回の映画を唯一無二のものにしている。
恐らくリーマンショック以降、アメリカンドリームをつかむことは容易ではなくなった。時代に合わせて設定を変えたと脚本家は語っているが、まぁそれに尽きるだろう。仕事よりもなによりも大切な何かがある……映画はそのように着地する。
『LIFE!』は「消えてしまった宝を数少ないヒントを頼りに探し出す」という基本的な枠組みを使いながら、時代にあわせ変化させるという、映画の主題ともマッチするやり方で生まれた新たなクラシックである。見終わったあとになんとも不思議な余韻をのこすが、これからはこういう映画が増えていくのかもしれない。個人的には主観的に撮った『バロン』や『ビッグ・フィッシュ』で『フォレスト・ガンプ』みたいな味つけだなと思った。スピルバーグが最初にリメイクしようとしたというエピソードも頷ける傑作。
参考にしたサイト↓『虹を掴む男』のあらすじが全部記載されているので注意されたし
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