ギャグ、血マシマシ、乳抜き『マチェーテ・キルズ』

マチェーテ・キルズ』鑑賞。

そもそも企画の発端が『グラインドハウス』のなかのフェイク予告編であり、ブラックスプロイテーションをうまくトレースした前作は映画に必要不可欠なものがてんこもりで、おふざけがすぎるシークエンスも多々あったが、メキシコ市民の怒りがぶち込まれた文句なしの娯楽作であった。

その続編である今作には前作になかった要素として本編前にフェイク予告編が入る。

これから楽しみにしている人のために内容は伏せるが、これが爆笑の出来であり、それまで地に足のついたグラインドハウス感(とはいえ充分ムチャクチャだったわけだけど)みたいなものを一気に崩してくるギャグ要素の強いものだった。実際こういう作品はたくさんあるだろうが、まさかブラックスプロイテーションがあのジャンルに!?というのは……もしかしたらない……いや、あるのかな……その辺勉強不足である。

とはいえ。ノリなのか、本気なのか分からないが、今作はこの冒頭のフェイク予告編のようにギャグに次ぐギャグをメインにした作風へとシフトしていて、それが前作のファンを困惑させる。一番問題なのはおっぱいがひとつも出ない点だが、一体ロドリゲスは何を考えているのか?やはりファミリー作品を撮りたいという部分が出てしまったか?まぁそれはそうと、出オチ的に使われる大物ゲストもコメディだから許されるわけで『キャビン』のラストのあの人のような使われ方で、それが次から次に出てきては去っていくというパターンだ。肝心なところで何故か訛ってしまうマチェーテのギャグも今回はかなり増え、腸を引きずり出してターザンみたいに使うというくだりもパワーアップしている。内蔵が飛び出る銃や鋼鉄のブラから弾が飛び出すなどあいかわらずのサービス精神は忘れてない(おっぱいでねぇけど)。

しかし、この一発ギャグを連打することに趣を置いたせいで、物語には今ひとつノリにくい部分もあった。そもそもマチェーテ側の行動に対する動機が今作はかなり薄い。一応復讐が名目になっているが、あっさりと虫けらのように事故的に死んでしまうので、マチェーテの悲しみがあまり感じられない。その方がリアルといえばそれまでなのだけれど、これは復讐映画でありジャンル映画でもあるわけだから、その辺はぎょうぎょうしくやってもいいように思った。懸賞金をかけられて、逃げなければいけないかわりに彼を襲う敵が少なかったり、最後の最後に黒幕が発表されても、マチェーテは「やってやるぜ!」という感情がそこまでないように見えて、いまひとつ燃えさせてくれない。いや、その相手は黒幕でありながらマチェーテが復讐すべき相手だったんだけど、それもサプライズ的に発表されるので観る側としては「あ、そうだったんだ」で終わってしまう。

さらに今回はゴア/ガンエフェクトがちゃちいCGになってて、日本のテレビドラマかよと思ってしまった。それも含めて“グラインドハウス”といわれればそうなんだろうが、そこにだけ命をかけてるような先代たちの気合いがこの作品には足りない。よくロドリゲスのアクションシーンはヌルいと言われがちだが、実際ロドリゲスはジャンル映画に対する愛がタランティーノよりもなく、普通に好きっすよーくらいのテンションで実際は映画を安く仕上げて儲けて、それで暮らしたいという商売人の気質があるような気がするのだ。自分が撮りたいと思って撮った作品は気合いもお金もかかってるが、今回は一ヶ月ちょいの早撮りでさらに制作費もかなり安い。明らかに前作を観た人だけを呼び込もうとしていることがわかる。

とはいえ。これを喰いにきたという客のニーズにはしっかり応えてるのは事実であり、実際文句が多いながらもかなり楽しんだ。というわけで前作がおもしろかったという人にはおすすめしたい。おっぱい出ないけどな!