もうひとつのエンディング『ファースター 怒りの銃弾』

『ファースター 怒りの銃弾』鑑賞。

ぼくよりもDVDを所有し、しかもそのほとんどがアクション映画という知人からブルーレイを買ったからDVDの方をあげるといわれ、そのままにしていた作品のひとつ。そのタイトルとロック様出演ということで完全にスルーしていた。

ある男が出所し、ある男をいきなり白昼堂々、大勢の前で撃ち殺す。はたして彼の目的は何なのか?……というシンプルなあらすじなのだが、これ以上書くとネタバレにもつながってしまうのが困り者。実際ぼくは何の情報もいれずに観た。

『続・夕陽のガンマン』をモチーフに『ザ・ドライバー』への目配せもある激シブ映画で、しっかりメキシカン・スタンドオフも濡れた路面も登場する(といいつつアメリカ映画の路面は夜になると結構濡れているものだが)。当然、主要の登場人物に名前はなく、ドライバー、刑事、殺し屋などで表記され、そのドライバーが強盗を逃がすシーンも本編とは関係ないのに回想で登場させる。主人公の心情は車から流れるラジオが語るなど、とにかく寡黙な作品でもあり、そういった部分においてのオマージュ感覚も抜かりない(ロック様の演技が良いのか悪いのかはこの際別にして)。

じゃあこれらの映画を観ている人向けなのか?といわれるとそんなことはなく、コミック的なキメ画を早いカット割りでぶった切り、捜査会議の最中にカメラがグルグル旋回するなど、映像面もかなり凝った作り。ここは現代的な、いわゆるMTV的手法と世間一般では呼ばれてるアプローチだと思うが、このスタイリッシュ感が絶妙で、幅広い世代に受け入れられるようなバランス感覚を保っているのが見事。

個人的にキリスト的な世界観が繰り広げられる後半と、その「ゆるし」に対する説教のせいでややテンポが悪いかなと感じたが、それを差し引いても傑作と呼んでも差し支えない。

んで、この作品。DVDの特典で入ってる「もうひとつのエンディング」が大変すばらしく、もし劇場でごらんになった方はこちらの方も合わせて観ていただきたい。監督の話によるとマーケティングの段階ではこの試写バージョンは不評だったらしいが(確かに言われてみると主人公の行動に正当性が……)、実はこのバージョン。最後の最後に正統西部劇ともいえる一対一のガンマン対決が待っており、その様子はまるで『男たちの挽歌II』のよう。そしてラストはニューシネマ的に終わるなど、実はこの作品は西部劇からマカロニ、ニューシネマ、ノワール、ケイパーと映画史を駆け抜けるという仕様になっていたのだ。この改変は非常に惜しい。このもうひとつのエンディングを知ってから本編を観ると、なんともふぬけたラストに感じてしまう。

というわけで、完全に食わず嫌いしていてヤラれたパターンだが、同じようにえー!ロック様でしょー?と思ってる人にはおすすめ。劇場で観た人も是非DVDの特典を要チェック。