噂通り二度読みたくなるが……『イニシエーション・ラブ』

乾くるみの『イニシエーション・ラブ』を読んだ。

結構前に発売された本だが、今年の3月にくりぃむしちゅーの有田が「しゃべくり007」にて「最高傑作のミステリー」として紹介し、一気に売れて累計100万部を突破したことがネットのニュースになった。恥ずかしながらぼくもその番組で知ったクチだ。おもしろそうだなとツタヤで探したが(ぼくは本はなるべく店頭で買いたい派)テレビのちからとはすごいもんで、乾くるみの棚からはこの本だけがキレイさっぱりなくなっていた。

たまたま村上に用事があり、立ち寄った本屋さんで見つけた。恋愛小説でありながらミステリーとしてカテゴライズされており、文庫本の裏にも「最後の二行で全く違った物語に変貌する。必ず二度読みたくなる傑作ミステリー」と書いてあるくらいなので楽しみにしていた。

結論からいうと、普遍的な恋愛小説である。書いてる本人が当時流行っていた『Deep Love』にかけて『チープ・ラブ』というタイトルでもよかったと言ってるらしいが(解説サイト参照)、ホントになんの変哲もない波風すら立たないラブストーリーで、合コンで出会った童貞と処女のふたりが大人になり、就職し、遠距離恋愛になったとたん、ふたりの心の距離もはなれ、やがて別れがくるというもの。

番組で有田がいってたとおり、さいしょに読み終わったときの反応は「ふーん……」だった。もっといえば、なんのオチもなくホントにこれで終わるの?という感じ。しかし、最後から二行目のある部分で「待てよ?これはおかしい」と気づいて、最初の方にページを戻したら「マジかよー!!!!!」とぶっ飛んだ。

そこからは「ここがここと繋がってたのか!」「これが実は伏線だったのか!」など、かなり計算されてつくられた小説なんだなということがわかった。ほんの些細なセリフひとつも見逃せないくらい様々なしかけがあり、タランティーノよろしくポップカルチャーついて固有名詞を出しながら主人公たちがしゃべるが、それが物語におおきな意味をあたえているのも新しいなと思った。

後半にいくにつれて「あれ?」と引っかかる部分があったのだけれど(これはネタバレになるのであえてふせる)「まぁこういうもんなんだろう」とそこを深く考察させないくらい勢いもあって、気づかなかった。気づいたとしてもよくできていることに変わらないのだけれど。

ただ、これってお話のおもしろさとしてはどうなの?と思ったりもする。

たしかによくできている。二度読むことですべてが補完されるし、おどろきもある。しかし、これはパズルが解けていく快感みたいなもので、物語自体がすごくおもしろいのか?と聞かれると素直に首を立てに振ることはできないかもしれない。賛否両論にハッキリ分かれるというのも頷ける。ぼくも正直いうと「サイドA」と表記された前半部分は読んでてちょっと苦痛だったりもした。そんな甘酸っぱい恋物語などまったく興味がないからである。とはいえ、一回読んでしまうと「どこが甘美でほろ苦い青春小説やねん!ボケー!」となるのだけれど。

というわけで、がんばって読んだ先には「必ず二度読みたくなる」こと必至なので、それを我慢できる人にはおすすめ。読書量が多くないので、本にたとえることができないが、内田けんじの『アフタースクール』みたいに「ある物語の見方を変えることでまったく違う物語に変貌する」というジャンルが好きな人はたまらないだろう。





↓ここからちょっとだけネタバレ


個人的には再読したとき、女の人のしたたかさとかぬかりなさがよくわかっておもしろかった。

男が恋愛するにあたって危惧することを平気でしてたり、男がうっかりミスしてしまうところもすべてカバーしてたり、ある意味では怖いなと。あと男はやっぱり過去の恋愛を引きずり、女の人はキレイさっぱり次にいけるんだなと。