オアシスの1stアルバム『ディフィニトリー・メイビー』のリマスター盤を聴いた

『オアシス/Definitely Maybe 20周年記念 デラックス・エディション』を聴いた。

何十周年記念と称して、ここ数年名盤と呼ばれるものがどんどんリマスタリングされて再発売されているが、その中でも買うべきかどうか非常に悩んだ一枚である。

ある世代にとっては長嶋/王、ある世代にとっては原、ある世代にとっては松井のように、ちょうどリアルタイムで出くわした最初のロックンロールスターがギャラガー兄弟率いるオアシスであり、ぼくにとってオアシスというバンドはザ・スミスやローゼズよりも遥かに重要な存在だということはひとまずキッチリと言っておきたい。

出会いは意外とシンプルで友人とカラオケにいったとき何気なしにその友人が歌ったのがオアシスの“ホワット・エヴァー”だった。当時ビートルズフリークだったぼくはこのストリングスが前面に押し出されたロックアンセムに名曲“イエスタデイ”の影を感じとり、興奮してすぐ帰りにそいつからCDを借りた。ベストヒットが詰め込まれたオムニバス盤だったが、その曲だけを繰り返し何度も何度も聴いた。後に“ホワット・エヴァー”は「90年代の“愛こそはすべて”」と評されていることを知るが、アルバムには収録されておらず、結局ぼくはその曲をきっかけにオアシスというバンド自体に興味を持ち、お小遣いをはたいて2ndアルバムの『モーニング・グローリー』を買った。

もちろん全世界でとてつもない枚数を売ったアルバムだけに完成度は随一。亀田誠治岸田繁が最近提唱しているが、究極の倍音成分ともいうべきギターコード/和音のシンフォニー。そしてその中で圧倒的に主張するボーカル/メロディ。日本人好みの曲展開………もしこれがレコードだったりカセットテープだったりしたらとっくに新しく買い直してるくらい聴いた。ギターも全曲弾けるまでコピーしまくった(実際オアシスの曲はギターソロなどを除けばコードがちょっと変わってるだけでわりと簡単にコピーできる)。ディランのように韻を踏んだものが直訳されてわけわかんない歌詞も読み込んだ。ぼくはすっかりオアシスのトリコになっていた。

そうなるとファーストアルバム『オアシス/Definitely Maybe』を今度は買うことになるのだが、実はぼくはこのアルバムにそこまでの思い入れはない。

もちろんスタジアムを揺らすことになるアンセムは大量に詰め込まれているが、楽曲の質でいえばやはり『モーニング・グローリー』が完璧すぎて、やや見劣りする曲もいくつか見られる。もちろんそれは他の凡百のバンドに比べれば超高水準なのだけれど、大吟醸を飲んだあとに純米吟醸を飲むようなもので、超うまいんだけどなぁ……という感じ。もちろんこのアルバムが最高傑作という声もあって*1、それもわかるし、バンドの初期衝動もうまく出ているが、ぼくはいまでもオアシスの最高傑作は『モーニング・グローリー』だと思っている*2

そういったこともあって、買おうかどうしようか迷っていたわけだが、食指がいまひとつ伸びなかったいちばんの理由は音の悪さだ。

このオアシスのファーストはビックリするほど録音状態が悪いのだ。それが『イン・ユーテロ』のように狙ったものではなく、単純にストレスすら感じるほどの音の悪さである。その反動から『モーニング・グローリー』はあれだけの音質になったんだと思うが、良くも悪くも荒削りで故にこれをリマスタリングしたところでそこまでハッとするような音質になってるとは思わなかったからだ。

もうひとつは特典扱いのディスク2とディスク3の存在。ディスク2は基本的にシングルのカップリング集でそれがリマスタリングされたもの。ディスク3は未発表のデモ音源とライブ音源だが、実はオアシスはシングルのカップリングにデモ音源やライブ音源、あげくビートルズのカバーなどを結構入れていて、それだけで満足している節すらあり、それが未収録のなにがしだったところでそこまで惹かれるようなものではない。他の人にとってはどうかわからないが、ぼくはビートルズの『アンソロジー』ほどの価値はないように思えた。

というわけで、このリマスター盤はお宝中古市場あたりで安くなったら買おうくらいに思っていたのだが、たまたまこれを友人が購入し聴かせてもらうことができた。なんてタイミング……ありがたい……

Amazonのレビューに似たような感想を書いていた人がいて、ホントに一語一句同意なのだが、とりあえずぼくが聴いた感想としては「ギターやボーカルなど驚くほどクリアになってはいるが、根本的な録音状態の悪さをそれがカバーするはずもなく、熱狂的なマニアかオアシスのシングルを所有してないという人以外はそこまでおすすめできない」という商品だった。曲によってはミックスがかなり変わっていて“スーパー・ソニック”や“シェイカイカー”など出だしの音でハッとさせられるものもあるが、逆にギターの音が抑えめになった(ように感じる)“リヴ・フォーエヴァー”なんかもあって、そのへんで統一感がなくなった気もした。

しいて良いところをいえば、ディスク2に“ホワット・エヴァー”のリマスターが収録されていること。

日本では人気が高いこの曲。そのままシングル盤としてリマスター盤を出してもよさそうなものだが、ノエル自身この曲にあまり興味がないらしく、おまけ扱いとして、もっといえばカップリング曲のような雑な扱いで収録されている。もしシングルを所有してないのであれば、このデラックスエディションは買いだといえるが、普通にアルバムだけをリマスターした通常盤と呼ばれるものは紙ジャケ(デジパック?)であること以外、是が非でも手に入れるようなものではないと思う。

というわけで、ややきびしめの評価になってしまったが、あくまでこれはぼくが感じたことなので、もちろん興味があるかたはお買い求めいただいて、自身のオーディオでセッティングを細かくした後に聴けばいいだろう。確かに良い音になったなぁとは思うし、もちろんこれを買ったら、旧盤のほうは聴かないが、それでも4000円の価値があるかと言われると……うーん、やっぱりかなり微妙……

オアシス 20周年記念 デラックス・エディション(完全生産限定盤)

オアシス 20周年記念 デラックス・エディション(完全生産限定盤)

*1:何年か前にイギリスの雑誌でイギリスで発売されたバンドのアルバムのアンケートをとったらこのアルバムが一位になったこともあるくらい

*2:一番好きなのは『ビィ・ヒア・ナウ』でそれはまた別の話