あっぱれ!ポン・ジュノ!『スノーピアサー』

『スノーピアサー』をレンタルDVDで観た。

温暖化を防ぐために地球を丸ごと冷やそうと、冷却ミサイルを打ち込んだらその威力が強すぎて、地球が氷河期になってしまった。そこで残された人類はスノーピアサーという巨大列車に乗り込み、なんとか生き延びる。それから17年………そのスノーピアサーのなかは極端なカースト社会になり、階級が決められ、貧乏人は列車の最後尾で地獄のような生活を味わっていた……というのが主なあらすじ。

原作を読んで、その設定に惚れたというのは監督の弁だが、奇しくも列車のなか「だけ」を舞台にすることによって、大手をふって『突撃』オマージュが出来るという発想は目からウロコ。極端な話、カメラの動かしかたをある程度制限されてしまうわけだが、これを逆手にとり、狭い通路をぐんぐんトラックアップしていく気持ちよさと横移動のスピード感で一気に最後まで突っ走るいう力技で乗り切った。

監督は『殺人の追憶』や『グエムル』など、芸術性と娯楽性を同居させる作品で有名なポン・ジュノ。今回も血なまぐさいところは血なまぐさく、激しいシーンは激しく、列車のなかで起こる暴動にフォーカスをあて、それだけで映画を構成していく。

映画が半分くらいいくとやや失速するが、役者の演出に長けているため、まったく飽きさせない。ソン・ガンホは韓国語で喋り、英語圏の人間とそのままやりあうが、ここは同時通訳機が発明されていたという設定で強引に進む。出てきた人全員しつこいくらいにクローズアップでこってりとした演技を見せるが、グラフィックノベルのような美術もあいまって、それが劇画調になっているようで、まったくイヤじゃない。登場人物に感情移入させたと思ったら、次の瞬間虫けらのように死んでいき、感動的な余韻すら与えない。あいかわらず突き放したかのような冷徹なタッチ。

細かいところでよくわからない部分もあったが、「今、実は食べ物がほとんどない地域や餓死するような民族がいないとあっという間に食糧難になって地球が滅んでしまう」という現状を盛り込んだのも良い。つまりこの作品は今この地球上で起こってる出来事を列車のなかに凝縮させて閉じ込めただけにすぎない。「列車版マトリックス」と評した人もいたが、あながちそれは間違いではない。無理矢理な展開もあるが、それは「少なくなった子供をどうするか?」、「人間が生きてくためには多少の犠牲も必要なんじゃないのか?」という問題にまでふみこんでいく。

というわけで、そこまで評価されてないように思ったが、単純にありそうでなかったハリウッド映画としてポン・ジュノが撮った意味は間違いなくあった。もっといえば彼の作家映画としてちゃんとカラーが出てて大変おもしろかったです。おすすめ。