荒唐無稽なスパイ映画を継承するのはオレだ!『キングスマン』

キングスマン』をBDで鑑賞。

ロンドンでクズ同然の生活を送っていた男の元にスーツを着た英国紳士があらわれ「君のお父さんは伝説のスパイだったのだよ!さあ君もスパイになろうじゃないか!」と言われ、そのまんまスパイになってしまうという映画。

スパイになるために過激な訓練をしなくてはならないなど、どっかで聞いたことある話だなぁと思った方は多いと思われるが、それは当然で、原作者であるマイク・ミラーの映像化作品『ウォンテッド』とあらすじはほぼ一緒。さらに“めざめ”や“継承”という根本的な部分は『キック・アス』にも見られる。「同じ話しか作れないのか!」という意見もあるだろうが、監督と原作者が同じであれば観客としてはそれを期待するわけで、手を変え品を変え同じような味を新鮮に楽しませてくれればそれでいいのである。実際、日本以外では大ヒットを飛ばしているらしい。

今しがた書いたように監督は『キック・アス』のマシュー・ボーン。絶妙な選曲と『マトリックス』以降、アクション演出の突破口を見出したセンスはここでも健在。荒唐無稽さとアート感溢るるスタイリッシュさの同居。全編見せ場なんじゃないかというほどの大出血サービスで、多くの人がいうように中盤の「教会皆殺しシーン」とクライマックスの「世界の終わりシーン」に圧倒され、随所に飛び出す小粋なジョークと過激なギャグでニヤっとさせ、コリン・ファースの背広姿に萌えた。

『007』のオマージュなのはよくわかるのだが、あえてマティーニの頼み方をボンドと真逆にするという演出もあり、その辺でニヤリとさせてくれる。それだけに飽き足らず全員が酒にうるさく、年代物のワインとマックのハンバーガーをあわせたり、ギネスを飲み終わるまで待てと言ったり、酒飲みには嬉しいネタがいくつかあった。しかもキングスマンを若者が継承するというストーリーがそのまんま「80年代荒唐無稽スパイ映画というジャンルをキングスマンという作品自体が継承する」という構造と一致しており、その辺もうまいなぁと思った(メイキングによるとこの作品はそもそもマイク・ミラーと監督が飲んでた際にでた「オレらが好きだったハチャメチャなスパイ映画って無くなったよなー!」というグチからはじまったらしい)。

気になる点として『キック・アス』でも違和感があった「主人公が二人いることで視点がブレる」問題があるが、これをあるポイントで引き継がせることにより見事解決(というか、この人そういう物語の運び方が好きなのかもしれない)。悪役となるサミュエル・L・ジャクソンや主人公の環境など社会派な側面もあるが、基本的に原作者は「オレの書いたマンガにアンジェリーナ・ジョリーが出てるんだぜ!うひょー!」とかインタビューで言ってる男なのでそこまで深読みする必要もないだろう。むしろおバカ映画の部類かもしれない。ギリギリ『オースティン・パワーズ』にならなかった的な。

というわけで期待以上のおもしろさに興奮した。さすがにやりすぎじゃないのかと思わなくもないが「世界を救ったら私のお尻でヤラせてあげる」というシーンだけでサムズアップ!!男はそんなことで立ち上がることができるのである(別な意味でも……)。