純文学に挑んだアニメ『恋は雨上がりのように』
実写化でも話題になったアニメ『恋は雨上がりのように』を某サイトにて観た。
きっかけは単純に「しゃべくり007」に大泉洋と小松菜奈が出ていて、ふたりが共演した映画ってなんだろう?と興味を持ったから。たいした番宣もしてなかったので、どんな話なのだろうと、わざわざyoutubeで予告編の映像を見たところ、45歳の冴えないファミレス店長を純粋な女子高生が好きになるという設定で、それがぼくの乙女心と甘酢*1憧れを刺激した。
あまり公言していないのだが、ぼくはおっさんと若い女の子が恋に落ちるという話がそもそも好きで、古くは『高校教師』であったり、スティーブ・ブシェミが監督した『トゥリーズ・ラウンジ』や、特に佐々木希が主演した『天使の恋』は何回も繰り返し観ているくらいで。あの『レオン』ですら、そういう感じで観てしまっている。毎度毎度それらを飲みながら鑑賞し、キュンキュンしながらふとんのなかで身悶えするのが……なんというか特に理由もないのだが……まぁ好きなのである。
なので『恋は雨上がりのように』も恐らく、『逃げ恥』から派生した“ムズキュン”モノのひとつとして作られたのだろうと思ってワクワクしながら見始めたら様子が違った。なんというか、この『恋雨』というやつは物語がなにひとつ大きく進展しないまま終わっていく恋愛物語なのである。
例えば、主人公は45歳で子持ちのバツイチだ。この時点で女子高生が好きになるにはある程度のハードルがあるし、彼女のことを好きな同級生もいるし、さらに彼女に手を出そうとするチャラい大学生もいる。そこまで彼らの恋愛にたいするハードルにあたるであろうガジェットを揃えているのに、それがまったく機能していないのだ。その同級生は恋心を抱いてるだけで、その内ちがう女の子を好きになり、チャラい大学生も一回デートしただけで、そのあとその女子高生になにをするわけでもない。一事が万事その調子で、つまり彼らの恋愛には“障害”というものがひとつも存在しないことになっている。
じゃあ、この物語では何が描かれているのかというと、恋したときの心の動きをすごく繊細にすくいとるというこの一点に集約されている。
これはその45歳のおっさんが純文学好きという部分にかかってくるのだけれど、恐らくこの作品はアニメで純文学的なことをやろうとしたのではないだろうか。だからこそ起承転結がないまま、キャラクターたちの心の動きだけを中心にストーリーが構築されているのだと思う。それは純文学ではよくあることで、人に純文学をおすすめする際「まぁ話としてはたいしたことないんだけど」なんて言い回しをすると思うが、感覚としてはあれに近い。この作品において重要である「雨」も、悲しみやこれから何かが起こる予兆の比喩としてはもちろん、他の何かであったり、単純に雨そのものとして使われていて、そのあたりも純文学らしいのだが、さらに急にシーンが飛んだりして、あれ?オレ?今のシーンボケーとしてて見逃したかな?と思うこともしばし訪れる。
話の核となる恋愛の設定だけでもこうである。そうなると、彼らの人生の目標もすさまじくささやかで、その終わり方というか、終わらせ方が絶妙で、この辺もフィクションとしては地味ではあるのだけれど、すごくリアリティがあるなと腑に落ちて、感動を覚えるのだ。
そもそも何をもってして夢をかなえるのか?というのは人それぞれであり、例えそれが現実離れしたものだったとしても、それを手にするのはほんの一握りで、たいがいの人は夢なんて叶ってないと思う。ただ、心持ちというか、ある程度自分の満足できるラインがあれば、そのやろうとする気力とか、その一歩だけで描き方によっては充分ドラマになり得ると思う。現実の地続きというか、日常の最低ラインというか、なにひとつない話であるはずなのに、心にこう……なんか小さい物がとどまるような、そういったおもしろさがこの作品にはある気がする。
と言ったわけで、ここまでくると実写版も楽しみなのだが、メイキングや予告を観るかぎり、その純文学感みたいなものがやや損なわれてるような気がして、ちょっと観るのが怖い。Twitterではアニメですら原作の良さが損なわれているなんて意見も目にしたくらいで、少し心配してしまうが、まぁいつか観るんだろうとは思う。
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*1:甘酸っぱい恋愛が繰り広げられる作品のこと