たたきあげの監督の映画はおもしろい『凶悪』

『凶悪』をAmazonプライムにて鑑賞。
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「女子高生コンクリート詰め殺人事件」や「埼玉県愛犬家連続殺人事件」、「北九州監禁殺人事件」、「東大阪集団暴行殺人事件」(いずれも映画化)など戦後犯罪史において胸くそ悪い殺人事件は山ほどあるなか、その事件をまとめたノンフィクションのタイトルが『凶悪』と付けられるくらいの陰惨な「茨城上申書殺人事件」をベースに映画化。その原作は積ん読状態なのだが、たまさか「奇跡体験アンビリーバボー」の特集を観ており、事件の概要などは知っている状態で観た。

映画は死刑囚の告発からはじまる。ネタになればとなんとなしに話を聞きにいった記者のジャーナリズム魂に火が付いたのか、彼は上司の制止を振り切って、徹底的に事件を調べあげていく。中盤、エクストリームな表現を交えながら当事者の視点で事件を描き、後半は彼らが逮捕される経緯とことの顛末が描かれるという三部構成。

監督の白石和彌若松孝二に師事していたということもあって、バイオレンス、エロ、ジャーナリズム精神を継承しつつ、ベテラン監督のような落ち着きがある。特に特撮畑からいきなり監督になった山崎某とか、カメラマンで名を馳せMVで評価されただけで調子こいて監督になった紀里谷なにがしとか、国民的アニメ監督の息子ってだけで劇場長編アニメを演出した駿ジュニアなどが目立ってきたため、改めて現場のたたきあげの監督のうまさみたいなものに感動を覚えた。

この映画の前に「埼玉県愛犬家連続殺人事件」をベースに映像化した『冷たい熱帯魚』が公開されており、それを意識したような部分も散見される。特にピエール瀧が演じた死刑囚の演技はそれこそ『冷たい熱帯魚』におけるでんでんクラスであり、これをキャスティングした時点で勝利は見えていたと言っていい。「先生」と呼ばれて親しまれているカリスマ犯罪者リリー・フランキーに抑えに抑えた演技の山田孝之と役者のアンサンブルはずば抜けていて、ここだけでも複数の鑑賞に耐えうる出来。

さらにこの映画は善と悪は表裏一体であり、ジャーナリズムという正義もときとして悪になるという明確な答えがちゃんとあり、その辺、是枝監督あたりにも見習ってほしいと思った。

というわけで、これ一本だけで白石監督のファンになってしまい、続けて『日本で一番悪い奴ら』も観たのだが、それはまた別の話。

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凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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