ザック・スナイダーしてやったり『東京無国籍少女』

『東京無国籍少女』をAmazonプライムにて鑑賞。
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制服を着た女子高生が血まみれになりながら戦うアニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の制作に携わっていた押井守が、まったく同じコンセプトを使った短編映画を観て「これは俺が長編として作る」と思い映画化にこぎ着けた。

ザック・スナイダーの『エンジェル ウォーズ』もそういうコンセプトからの影響だと思うのだが、なんと今作は奇しくもそれに対する日本からの……というか押井守からの解答が出たという感じ。ややネタバレになるんだけど、構成は一緒でザック・スナイダーとしてはしてやったりといった具合だろう。

ただ『エンジェル ウォーズ』と同じ構造を持つ作品でありながら、今作が決定的に違うのは、それがしっかり押井守の作家映画になっていたということである。というかやっぱりこの人、『うる星やつら』にしても『パトレイバー』にしても終始一貫してる哲学というか、押井守であることがわかる刻印みたいなものがあるなと再認識した。

主人公である謎の女子高生は、とある理由で普通の生活に馴染めなくなっている。なぜか同級生にイジメられ、担任の先生はそれを見て見ぬ振りし、もっといえば担任にもイジメられるなど、誰がどう見ても理不尽な状況であり、それによって彼女の居場所は学園にはない。彼女がいるべき場所、彼女が帰るべき場所、彼女が輝ける場所が実は別にあり、それこそが……というのがラストで明かされるという展開。ここが『エンジェル ウォーズ』とは違うんだけど、言ってしまえば『アヴァロン』とか『スカイクロラ』とテーマは同じ。押井守の感覚として、それまで仮想世界で済まされていたことがいよいよ現実になっていて、すぐそこまで迫っている………と、まぁそういうことである。

主演は園子温に見出された清野菜名。観る前からいろんなところで出ていたように、クライマックスでロシア兵をバッタバッタと皆殺しにするのだが、押井守の「アクションではなく急所を切り裂く殺戮がみたい」という要望に見事な身体能力と殺気ある表情で応えた。もちろんアクション監督としてクレジットされている園村健介の功績も大きく、恐らく武田梨奈はこのアクションシーンに嫉妬しているはずである。清野菜名の目標は「ミラ・ジョヴォヴィッチと『バイオハザード』シリーズで共演する!しかもポール・W・S・アンダーソン監督で!」とのことだが、あながちそれが届かない夢でないことがこのクライマックスを観るとよくわかるくらいホントにホントに素晴らしい。

押井守独特の小難しい映画にも思えるだろうが、ある意味「なめてた女子高生が実は殺人マシンでした」というギンティ小林氏が定義付けたジャンルにも当てはまるのでそういう『イコライザー』的な映画が好きな人にとっても、押井守ファンとしてもおすすめ……いや、ごめん、後者じゃないと無理かも。前半は退屈でもあるし。




別に映画観ねぇよ、どういう話か教えろよという人のためにネタバレ



主人公は戦争に駆り出された兵士であり、負傷し、ベッドで昏睡状態であったことがラストで明かされる。つまり冒頭の学園生活はすべて夢であり、彼女の無意識下のなかで「みんなが夢見ている普通の生活には戻れない。戦場で人を殺すことこそ私の生きる道であるんだ」と決意する。そのためのクライマックスの大立ち回りがあり、夢から覚めた彼女は医者の言葉を振り切って、またしても戦場に戻っていく。『アヴァロン』も『スカイクロラ』も戦争をテーマにしながらそれが現実ではないとしていたが、今作では日常が幻想であり、今までは幻想として描いていた戦争こそ現実だと帰結させた。戦争が身近になった今だからこそ戦争が現実でその戦争に生きるべしというちょっと“アレ”ないつもの押井節が炸裂する



ネタバレ終わり。



この映画はこの映画で大変おもしろく観たんだけど、実はこの後に塚本晋也の『野火』を観て、やっぱり押井守の戦争観はアホだろと思った。それはまた別の話。

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