え?これ監督ベン・アフレックだったの?『ザ・タウン』

『ザ・タウン』鑑賞。俳優ベン・アフレック監督作。

年間300件以上の銀行強盗が起こり、強盗が親から子へ家業として受け継がれることも多いというボストンが舞台。幼なじみと一緒に強盗をしているダグは人を傷つけずスムーズに金を奪うことを信条にやってきたが、ある日襲った銀行で警報を押されるというミスを犯してしまう。仕方なしに女性支店長を人質に取り逃走。無事に警察から逃れることの出来たダグたちは免許証を奪って人質の女性を解放した。ところが免許証に書いてある住所を見ると彼女はご近所さんだった。もしかしたら自分たちのことがバレてしまうかもしれないと恐れたダグはクレアに近づくのだが、奇しくも二人は惹かれあってしまうのであった……

なるほど、評判通りの力作だ。これを(チャラチャラした映画ばかり出てる)ベン・アフレックが撮ったのか!?と思うほどに骨太で濃厚な犯罪映画。マイケル・マンの『ヒート』を換骨奪胎し、フランケンハイマーばりの無骨な演出ですでに巨匠の風格すら漂っているが、そこまで重々しくなくさらっと平らげることが出来る。一人の人間を丸々封じ込めた脚本、人質に恋をしてしまうという映画的な悲恋、ドキュメンタリータッチで見せる銀行襲撃シーンなどの見せ場、個性的な役者の演技とこれと言った破綻もなくバツグンの安定感がある。現実離れした物語ではあるが、それに圧倒的なリアリティを加えてるのはずばりタイトル通り舞台となるボストンの街並。監督自身の庭のようなものなので隅から隅まで知り尽くしているのか、生活感が映像からにじみ出ていた。空が見えにくく、建物と道路を中心とした映像はストーリー上の効果も生んでいて「この街から逃げなければ」という閉塞感が、FBIに追いつめられるたびに「こんな狭苦しいところからは逃げられないかもしれない」という緊迫感に変わっていく。

全編に見せ場がぷりたつで強盗しすぎだろ!というツッコミを無視した怒濤の展開は息も付かせず、白昼堂々繰り広げられる銃撃戦はまるで『ヒート』のそれのよう。それどころか『RONIN』のような狭苦しい路地を爆走するカーチェイスや防犯カメラの映像を織り交ぜたドキュメンタリータッチの銀行襲撃シーンなど見せ方も豊富。緩急織り交ぜるようにしっとりとした人間ドラマも盛り込まれているが、人質に自分の正体がバレてしまうかもしれないというサスペンスがラストまで継続するので、テンションが決して落ちることはない。特に中盤、銀行員とランチしてるところで強盗の仲間と鉢合わせするシーンはたかだか昼飯を喰らって世間話をしてるだけなのに異常な緊張感が漂う。モーションをいじくるアクションブームに中指おっ立てるがごとく、基本は迫力重視でそのすべてがあたかもその現場にいるかのよう。『アルマゲドン』や『パール・ハーバー』、『レインディア・ゲーム』、『ジーリ』など、俳優として誇れない仕事ばかりしているイメージがあったが、彼は元々アカデミー脚本賞で脚光を浴びた才人だった。その才能が再び監督として開花したということだろう。

というわけで、それこそ『ヒート』や『RONIN』が好きならばおすすめ。日本未公開だった『ゴーン・ベイビー・ゴーン』も観てみたくなってしまった。あういぇ。

ゴーン・ベイビー・ゴーン [Blu-ray]

ゴーン・ベイビー・ゴーン [Blu-ray]