ファインディング・麻理『いぬやしき』

いぬやしき』をレンタルDVDにて鑑賞。
f:id:katokitiz:20181223201748j:plain
職場や家族にもその存在自体をないがしろにされている初老の男がガンで余命いくばくもないことを知った。家族にその事実を打ち明けられないまま悶々と日々を過ごしていたが、ある夜、犬の散歩の途中で立ち寄った公園が謎の大爆発を起こし、男はその場で即死。しかし、彼はその記憶が曖昧なまま、まるで夢を見ていたかのように公園で朝を迎える……というのがあらすじ。

原作を5巻まで読んだあと、ノイタミナ枠でアニメ化されたものをAmazonプライムにて全話観た。ぶっちゃけ音楽がやけに仰々しく、そのことによってギャグとして処理されていたシーンがややエモ寄りになってしまい緩急がなくなってしまったが、それが感動的なシーンではいかんなく発揮され、小日向文世の大熱演もあいまってアニメならではの表現として生まれ変わった。高校生役の村上虹郎も「90年代浅野忠信」のような佇まいを声だけで再現し独自の存在感をアピール。原作を完コピするという方向性だったため、映像化するには危険な部分もあったが、ちゃんとノーブレーキで挑んだことは賞賛に値する。CGの進化も含め、このクオリティなら『ザ・ワールド・イズ・マイン』や『童夢』も同じスタッフでアニメ化したらファンも納得するのではないかという出来であり、ハッキリいってこのアニメ版は日本製のエンターテインメント作品において『シン・ゴジラ』に並ぶほどの傑作で、ドラマや映画といった映像表現に関してはまずこれを越えることがしばらくハードルとなるのではないか?といらぬ懸念をしたほどだった。

無論、実写版がアナウンスされた時点でアニメ版を越えることはできないであろうとたかをくくっていたが、意外や意外、これはこれで独立したものとして楽しむことができた。監督は『GANTZ』をへっぽこにしたことで有名な佐藤信介。しかし『アイアムアヒーロー』が絶賛され、その実力がようやく発揮されたところで、同じ原作者の作品の実写化に再び挑むことになったとは何の運命だろうか。本人としてはリベンジのつもりだっただろうが、それは果たせたといっていいだろう。

今作でのポイントはCGの進化によって『アイアンマン』や『スパイダーマン』シリーズにもやや手が届くような和製アメコミヒーロー映画になったこと。『ジョジョの奇妙な冒険』もそうだったが、今までの邦画にあった「うわー、ここCGっぽいなぁ」というノイズが完全になくなったことで作品への没入感がハンパなく、もしかしたら鈍重になりかねなかった二幕目も映像で逃げることができたし、クライマックスに関してはアニメ版よりも見せ方がうまいので原作以上の興奮が得られた。

さらに良い意味で執拗に描いてたいくつかのシーンも省略され、主人公の追い込みを増した脚色がかなりうまくいっており、原作にはなかった“弱点”を加えることで、破壊一辺倒になりかねかったクライマックスにスパイスを効かせることができた。ややスケール感はダウンしたものの、『ヒメアノ〜ル』的な物悲しいラストに関しては原作超え出来たのではないかと思わせる。

主役を演じた木梨憲武はコメディアンであることを忘れてしまうほどの小市民感を見た目で演出され、「まーりー!」と娘の名前を叫びながら新宿の街を探しまわるシーンは完全に『ファインディング・ニモ』のお父さんと演技が一緒であり、もしかしたらあれを観たプロデューサーなり監督がこの役にピッタリだとオファーしたのかもしれない。高校生役の佐藤健に関しても以前から思っていた「もしかしたらこの人、根は悪人じゃね?」という部分が見事に抽出されハマっていたし、役としても幅が広がった。なぜかアニメ版から引き続き同じ役で登場した本郷奏多も弱々しいヲタクな感じがちゃんと出ててよかった。

もちろんいろいろ言いたいことはあるが、画に説得力があったため、かなり満足感があったことも事実。マンガの実写化は不可能といわれてきたが、この昨今においてそれは死語化するかもしれないなと改めて思った。恐らく映画館で観ていたらもっともっと興奮していたに違いない。意外とおすすめ。