監督と脚本家を検索しても出てこない……『SAEKO』

どうも7ヶ月ぶりです。とはいえTwitterの話題から検索していただいてるのか、安定したアクセス数を稼いでおります。ありがとうございます。もしこれがyoutubeならそこそこの小遣いになっていることでしょう。

前にホワイト企業に入社できたと書きましたが、そこから5ヶ月前に出向になりまして、出向先がとんでもない仕事量のところだったんですが、その代わり15時は確実にあがれる会社で、さらに仕事に慣れた結果、ここ最近は実働時間6時間で14時あがりと、バイトかと思えるほどの環境にあいなりました。薄給ではありますが、今までが今までだっただけにここはダラダラと自分の時間を無駄に使いたいと思っております。つってもyoutubeとか「バチェラー・ジャパン」とか観てるだけだけど。

で、早速本題へ。

その出向先にて、ちょっと前に50歳の男性が取引先の紹介で入社した。普通に仕事をしていたのだが、あるとき映画の話になり、いろいろ話しているうちにある程度は映画が好きな人なんだなとお互いが認識し、いきなりその人が「カトキチさんって“狂い咲きサンダーロード”って知ってますか?」と言ってきた。

そこからは話が止まらず、いろいろな映画の話をしたのだが、おすすめの映画があると後日5本ほどDVDを借りた。そのなかに入っていたのが今回紹介する『SAEKO』なる映画だ。
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常盤貴子がブレイクする前の映画とだけ紹介されたのだが、ネットで調べてもほとんど情報は出てこず、監督名で検索してもフィルモグラフィはこの『SAEKO』の一本だけ、さらに原作と脚本を連ねる人物を検索しても同じくこれしかたどり付けず、その原作の名前も入力しても出てこないという謎だらけの作品。Twitterでは恐らくVシネではないか?という意見も出てきたが、Yahoo!映画には登録されているようなので、劇場で公開されたのだろうということで落ち着いた。

94年の作品であり、基本的に『眠らない街 新宿鮫』や『天使に見捨てられた夜』、『シティハンター』後の『不夜城』に連なる新宿を舞台にした探偵の話。人を探し出すこと「だけ」が信条の冴子がその信条を破って探し人を依頼者の元に送り届けたことから事件に巻き込まれていく。このあたり『トランスポーター』っぽいな。

ぶっちゃけ最初、演技もステレオタイプでバブル引きずってるチャラチャラした感じの喋り方がノイズになり、ヤクザの描写もおままごとのようでダサく、さらにエピソードも人を探し出して、助けて終わるだけの連なりで「おいおい大丈夫か?」と思ったのだが、これがなかなかおもしろかった。

ちょうど時代もあったのだろうが、演技指導はアレな分、演出がかなり濃厚で、描写も展開も容赦ない。さらに前半の部分が意外なところで繋がりを見せ始め、最終的には思いもよらないところへ転がっていくところも良い。逆に言ったらタイトで無駄がないためすべてのシーンが意味を持ってくるあたりもうまい。主人公たちの関係性が何一つ説明されないし、主人公の心情も出てこないまま話が進んでいくのだが、これも裏を返せばハードボイルドの定石通りであり、なかなか制作者たちも“わかってる”感が強い。

そもそもこの映画の中で描かれているのは女がダマされAVに出演させられ、路地裏で麻薬が売買され、BARには裏社会の人間が集まり、日々殺人事件が起きているオレが見たかった新宿である。ハードボイルドで重要なのは街が魅力的に描けていることだと言ったのは確か糸井重里だったと思うが、その土台がしっかりしてる段階でこの作品は及第点である。

何よりも素晴らしかったのが藤原組長こと藤原喜明の存在感だ。

不勉強ながら映像作品に出ていたことを知らず、こんな演技も出来るのかと驚いたくらいで、中盤以降は常盤貴子よりも目立っており、後半は彼を見るためだけに観ていたといっても過言ではない。なんならちょっと彼の演技にウルっときてしまったくらいである。

というわけで、絶対に観た方がいいとは口が裂けてもいえないが、何一つ情報がない作品だったのでこうして記事にした次第である。藤原組長のことを書いたが、常盤貴子がすこぶる魅力的で、彼女のキャピキャピした演技とハードボイルドの骨太さが化学反応を起こしてるあたりも見所だ。