読書

関根彰子はあのとき何をしていたのか?/葉真中顕『絶叫』

葉真中顕という作家の登場は衝撃的だった。正確にいうならば、その登場の“仕方”が衝撃的だったというべきだろう。まず彼はブロガーとしてぼくの前に現われた。彼のブログは立ち上げてから半年もしない内にブレイクし、その名を轟かせていったが、そんな彼の…

容疑者Xの一族の焦点/レイモンド・チャンドラー『プレイバック』

この年の瀬にインフルエンザにかかった。しかもA型である。自ら望んだことではあるものの、12月22日から1月15日まで休みは元日だけというスケジュールだった。とはいえ、望まなくてもこのようなシフトになったに違いない。なぜならぼく以外の連中も同じだか…

AKBよりもタチが悪い選挙の裏側/黒川博行『喧嘩(すてごろ)』

黒川博行の『喧嘩(すてごろ)』を読んだ。 ハードカバーを新刊で発売日近くに買ったのはチャンドラーの『大いなる眠り』以来のことである。つってもそれ昔の小説じゃん……その前となるとアプトン・シンクレアの『石油』か?それも昔の小説……直木賞を受賞した『…

そして歴史は繰り返される/ジェイムズ・エルロイ『背信の都』

ジェイムズ・エルロイの『背信の都』が県立図書館にあったので、借りてきて読んだ。ありがとう図書館。 10連勤などもあり、読み終わるのに二週間かかったが、もっとじっくり読むことも出来たので、ヘタしたら一ヶ月以上はかかっていたかもしれない。戦争を知…

スマホ/SNS時代に銀行強盗をするということ/伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』

伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』読了。 伊坂幸太郎は東野圭吾や松岡圭祐、古くは村上龍に並んで“いけすかない*1”作家のひとりなのだが*2、この『陽気なギャング』シリーズはかなり好きな本で、一作目は三回再読してる程度にはお気に入りである。知…

宮部みゆきが誉めた“理由”/朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』、『何者』

これから映画が公開される……からというわけでもないが、朝井リョウの直木賞受賞作『何者』とデビュー作にあたる『桐島、部活やめるってよ』を読んだ。後者は映画版も鑑賞。 ハッキリいうとみんなが大絶賛した映画版『桐島〜』はそこまでハマらず、普通におも…

加藤シゲアキの小説を全部読んだ

お久しぶりです。8月の頭から20連勤→6連勤→13連勤→12連勤→8連勤という地獄を味わっておりました。おかげで何もする気がなく、休憩中もほぼほぼ待機という扱いで本を読むくらいしかやることがなく、そのおかげというか、ちょっとした活字中毒になってしまい本…

意外や意外、ド直球のノワール/黒川博行『後妻業』

前回、黒川博行の直木賞受賞作『破門』と『国境』について書いたのだが、その二作から黒川博行という作家にドップリハマってしまい、その二冊を含むシリーズの『疫病神』、『暗礁』、『螻蛄(けら)』を全部読んだ。これが信じられないほどおもしろく、今まで…

直木賞を受賞した作品としなかった作品/黒川博行『破門』と『国境』

黒川博行の『破門』と『国境』をそれぞれ読んだ。 元々読書量が多くなく、不勉強ながら黒川博行という作家のこともなにひとつ知らなかったが、唯一読書とウォーキングが趣味の親父が「ここ最近読んだ本のなかでダントツにおもしろかった。読んだ方がいい」と…

コーエン兄弟の原点?/レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』

超遅ればせながら『大いなる眠り』を読んだ。村上春樹訳のほう。大いなる眠り作者: レイモンドチャンドラー,Raymond Chandler,村上春樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2012/12/01メディア: ハードカバー クリック: 2回この商品を含むブログ (24件) を見る…

又吉よりも笑える?『スクラップ・アンド・ビルド』

又吉直樹じゃない方の芥川賞『スクラップ・アンド・ビルド』を読んだ。 大変失礼な書き出しではあるが、そういう意味でも話題になっているので説明は不要だろう。しかし、又吉*1のライブに来たお客さんのなかでわずか3人しか『火花』を読んでなかったように…

すでに作者の人となりが分かっている純文学『火花』

又吉直樹の『火花』を読んだ。 もはや説明不要といったきらいもあるが、現役の人気芸人が第153回芥川賞を受賞し、さらに出荷数が200万部を突破したことで話題になっている。あまり読書量が多くなく、純文学と呼ばれるものもたいして読んでないのだが、かなり…

ヘンテコな原作、優れた映画化『砂の器』

実はちょっとした機会があって『砂の器』を10年ぶりに再読した。『砂の器』は世間的に松本清張の代表作と言われているが、ぼくはヘンテコリンな小説だと思っていて、よくぞここまでのものにしたなと逆に映画版の評価がグンと上がったくらいだった。今回読み…

妹の友達がマンガ家になりました

妹の職場にすごい映画が好きでマンガを書いてる男の子が働いてるっていうのは前から聞いてたんだけど、なんとその彼がマンガ家としてデビューすることになりました。 今月のガンガンに『PANDORA』というタイトルで掲載されています。内容としては学校の中に…

噂通り二度読みたくなるが……『イニシエーション・ラブ』

乾くるみの『イニシエーション・ラブ』を読んだ。イニシエーション・ラブ (文春文庫)作者: 乾くるみ出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2012/09/20メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る結構前に発売された本だが、今年の3月にくりぃむしちゅーの有田…

タイトル負けしてない内容/『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』

かなり話題になってるマンガ『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』を読んだ。 「なんて素晴らしいタイトルだろう!」とその時点ですさまじく感動を覚えたのだが、このタイトルをはじめて耳にしたのは今年の3月。ライムスター宇…

メイキング・オブ・アメトーーク/加地倫三『たくらむ技術』

人気番組「ロンドンハーツ」や「アメトーーク」の演出・プロデューサー加地倫三の新書『たくらむ技術』を読んだ。 ぼくは子供のころからバラエティ番組を見るという行為がとても大好きで、未だに毎週毎週かかさず見ているものが多いが、ブログでそのことにつ…

なぜ村上春樹にとって『リトル・シスター』が「愛おしい作品」なのか?

村上春樹が新たに翻訳したチャンドラー三作品を読んだ。ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)作者: レイモンド・チャンドラー,村上春樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/09/09メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 38回この商品を含むブ…

1917年の“ア↑コガレ”『きびしい冬』/レーモン・クノー

レーモン・クノーの『きびしい冬』を読んだ。きびしい冬 (レーモン・クノー・コレクション)作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,鈴木雅生出版社/メーカー: 水声社発売日: 2012/02メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (4件) を見る『地下鉄…

『地下鉄のザジ』の新訳を読んだ

地下鉄のザジ (レーモン・クノー・コレクション)作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,久保昭博出版社/メーカー: 水声社発売日: 2011/10メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (11件) を見るルイ・マル監督の三作目にあたる『地下鉄のザジ』…

人殺しはディナーのときに『DINER ダイナー』

平山夢明『DINER ダイナー』を読んだ。第13回大藪春彦賞と、第28回日本冒険小説協会大賞をダブルで受賞した話題作。ひょんなことから殺し屋しかあつまらない会員制の「ダイナー」のウエイトレスをすることになってしまったオオバカナコの物語。 いつか自分の…

気にしすぎなトラヴィス『告白』

町田康の『告白』を読んだ。この人の本を読むのは初めてである。告白 (中公文庫)作者: 町田康出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2008/02/01メディア: 文庫購入: 12人 クリック: 184回この商品を含むブログ (138件) を見る異常なほど長いワンセンテンス。…

小説なのに「書かない」ということ

馳星周の『夜光虫』と『漂流街』を読んだ。夜光虫 (角川文庫)作者: 馳星周,荒木経惟出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2001/10/24メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 76回この商品を含むブログ (19件) を見る漂流街 (徳間文庫)作者: 馳星周出版社/メーカー: …

タランティーノ以降、ついに飛び出した才能『さらば雑司ヶ谷』

超今更ながら、樋口毅宏『さらば雑司ヶ谷』を読んだ。さらば雑司ヶ谷作者: 樋口毅宏出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/08/22メディア: 単行本購入: 58人 クリック: 2,186回この商品を含むブログ (68件) を見るいやはや、とてつもないものを読んだという気…

果てしなき絶望と一筋の光『ダウン・バイ・ロー』

深町秋生の新刊『ダウン・バイ・ロー』を読んだ。ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)作者: 深町秋生出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/05/15メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 186回この商品を含むブログ (17件) を見るかつての親友であった遥を、数人のグ…

映画『へルタースケルター』が楽しみでしかたないのだが……

ビートルズで『へルタースケルター』が一番好きだと公言していたこともあって、前から同名のマンガが存在するということは知っていたし、気にはなっていたのだが、なんとなく買わずに今日まできてしまった。ぼくは基本的に情報をシャットアウトしてから映画…

新たな筆致とその波『アウトバーン』 『アウトクラッシュ』

深町秋生の『アウトバーン』と、その続編である『アウトクラッシュ』を読んだ。アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)作者: 深町秋生出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2011/07/25メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 26回この商品を含むブログ (3…

俯瞰という絶対的な視点『非選抜アイドル』

仲谷明香の『非選抜アイドル』を読んだ。 いきなり失礼なことを書くが、仲谷明香(なかや・さやか)という名前を聞いて、すぐに顔を思いだせるひとはそんなに多くないと思われる。実際ぼくも彼女のことをハッキリと認識したのはNHKで放送したドキュメンタリー…

読むヒップホップの授業『文化系のためのヒップホップ入門』

『文化系のためのヒップホップ入門』読了。 id:doyさんのブログにて紹介されてるのを見て、即購入し、あっという間に読んだ。 2011-11-13 - THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE ぼく自身ロック至上主義みたいなところがどっかにあり、実は積極的に聞く音楽のジ…

こういうジョーカーなら試されたい『惡の華』

『このマンガがすごい!2011』で10位に選ばれた『惡の華』を読んだ。 ――――と最近この出だしのネタが多いのだが、何故かというと0度や氷点下が当たり前という寒さのせいで外に出るのが億劫になってしまい、部屋にこもってマンガばっかり読んでいたからだ(あと…