タイトル負けしてない内容/『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』

かなり話題になってるマンガ『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』を読んだ。

「なんて素晴らしいタイトルだろう!」とその時点ですさまじく感動を覚えたのだが、このタイトルをはじめて耳にしたのは今年の3月。ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフルの推薦図書特集にて、しまおまほがおすすめのマンガとして紹介したときだった。

ブースにいたメンバーが『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』と読み上げただけで爆笑するほどの吸引力であり、是が非でも読みたかったのだが、普通に書籍として販売してるわけではなく、鉛筆で書き上げたネームのようなものを本人がコピーしてホッチキスで留めて作った同人誌で、東京のごく一部の店舗にしか置いておらず、ぼくのなかではこの時点で「まぼろしのマンガ」になっていた。

時はすぎ、このマンガが正式に書籍化されることを知り、ついに来たか!とありとあらゆる本屋を探しまわったのだけれど、どこのツタヤの検索機でも「在庫なし」の文字ばかり出てくるので、しかたなくAmazonで注文して今にいたる。まぁジュンク堂とか紀伊国屋とかいけば間違いなく手に入ったかもしれないが……(ぼくは本はできれば本屋で買いたい派)。

さて、この素晴らしすぎるタイトルのマンガ。読む前にそのインパクトが強すぎて名前負けしてないか?という懸念もなくはなかった。ぼくもブログを書くにあたって、毎回タイトル決めには苦労していて、どういうタイトルだったら「読みたい」と思わせることができるだろうと頭をひねる。結局、試行錯誤の結果どうでもよくなって適当につけてしまうわけだが、そういうことを少なからず考えてる人にとって、このタイトルが持つインパクトは計り知れないものがある。しかし、芸人でいえば出オチのようなもので、読む前からハードルが上がるのも事実であり、よほどの内容じゃないと読み手は満足しないだろうなとは思っていたのだが、内容的にはこのタイトルにまったく負けてない。それよりもこちらの想像を遥かに越えた強烈な作品であった。

短編のマンガがいくつか収録されているが、どれもこれもバツグンのおもしろさで。「空の写真とバンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーの恋」に「ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニアの楽園」に「口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持ってかれる漫画」と表題作に匹敵するインパクトのタイトルばかり。もしこれがはてブホッテントリにあがってきたら、そのタイトルだけで3ケタのブクマ数は稼ぐであろう。作者はこういうフレーズを考える天才であるといえる。

表題作はみうらじゅん御大の傑作『アイデン&ティティ』をもっとアマチュア寄りにして絶望感を増した感じであり、サブカル版の『へルタースケルター』というべき内容で、それがフィクションでありながら、もしかしたらこの日本のどこかで本当にあったかもしれないことくらいのスケールで描かれてるのが良い。古泉智浩作品が好きな方には絶対におすすめである。

マンガとしての文法もユニークで個人的には書き下ろしで収録された「ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニアの楽園」という作品が特に気に入った。中盤、ダウンタウンがどういう芸人か?というのをまくしたてるところがあるのだが、あそこは『さらば雑司ヶ谷』のオザケン論を彷彿とさせる衝撃度であり、物語自体もそれだけが浮かないようにしっかり構成されている。

タイトルで検索すると概要が書かれたブログやレビューに引っかかるが、なるべくなら情報を入れずにこのタイトルに引っ張られる形で最後まで堪能していただきたい。あとマンガを読んでこういうことは滅多に思わないのだけれど、深夜あたりでしれーっとドラマ化とかしてほしいなぁとも思った。まぁこの役誰がやるんだ?って話だけど。