ぼくが『SUPER8』で好きなところは恐らくみなさんがダメと言ってる部分だ(超絶ネタバレ感想)

その愛にむせび泣く『SUPER8/スーパーエイト』 - くりごはんが嫌い

前回のエントリでは、あくまでネタバレをしないようになんとなく表面的に言及した感じですが、今回はネタバレ全開の感想文になってます。単純にぼくがここが好きだぁ!と思ったところを羅列していくだけです。なので、分析であるとか、論じるというのとは関係ない、偏愛エントリとも言うべき、しょーもない個人的な感想です。だからちゃんとチラシの裏に書いてるじゃないかぁ!!


アバンタイトル後の“Don't bring me down”

主人公の母親が亡くなってしまうところから映画は始まる。

ハッキリとすべては提示されず、ブランコに主人公が座り、家の中から聞こえる話し声に耳を傾けている。家の中で何が行われてるかは一切写されない。若干暗いトーンで、説明的なセリフを徹底的に省くことで、「この映画は全体的にこういう演出で進んでいきます」という所信表明をするわけだが、このくらーい冒頭を吹き飛ばすかのように、クレーンの俯瞰映像から青空が抜ける画をバシっと切り取り、ELOの底抜けに明るいポップチューン“Don't bring me down”がかかる。この切り返しで、この映画は良い!と確信した。

“Don't bring me down”はあのPUFFYの『アジアの純真』の元ネタ*1としても有名だが、ジョン・レノンが免罪符として“You Can't Catch Me”をカバーしたように、PUFFYも後にこの曲をカバーすることになる。

注目すべきはその歌詞。以下、超訳

君はボンクラ仲間と遅くまで遊んでいたいだろうけど
いいかい そんなのやめなくちゃダメだよ

この曲が鳴り響いたあとに、そのボンクラ仲間が登場するわけなんだが、その風貌ややってることは――――観た方ならもうお分かりだろう。さらにこの曲を念頭に置けば、その後、夜中に抜け出して行動するというシーンの前フリになってることもよく分かる。

イージー・ライダー』以降、既製の音楽を使うことで、キャラクターの心情を表すというのが、ひとつのスタンダードになったわけなのだが、出だし一発のこの選曲にはホントにヤラれた。ぼく自身、この時代の音楽には詳しくないので、他の音楽――――例えば「おしゃれフリーク」のくだりとかはギャグとしてはそこまで分からないのだけれど*2、たまたまELOが好きだったこともあって、イントロのドラムが鳴った瞬間、歌詞の意味も鑑みて映画館でニヤリとしてしまった。同じようにニヤリとした人は少なくないはずである。


・クソ生意気なガキや主人公の行く手を阻むキャラクターが居ないという演出

この映画でぼくが最も気に入った部分は、ずばりイヤなヤツが出て来ないという演出/プロットである。

スタンド・バイ・ミー』がそうであるように、この手の映画では必ず、イヤらしい生意気なガキが出て来たり、そのガキの行く手を阻むような不良っぽいヤツが出て来たり、もっと言えばそういうイライラさせられるキャラが仲間内にいたり、イヤな大人に挫折させられたりするわけだが、ぼく自身そういうキャラクターが映画に出てくるのが大嫌いなので*3、それらが一切出て来なかったのは――――個人的な嗜好だけど、とてもよかったと思っている。といっても、ぼくは映画に出てくる悪人や悪役は大好きだし、逆に主人公がすべて兼ね備えてるという設定は大嫌いだということだけは言っておきたい。

ジュブナイルSFとして考えれば、そういった主人公を取り巻くキャラクターにイヤなヤツがいないとか、純粋無垢なキャラクターがある種のアイコンとして描かれるのは必然的であるとも言える*4。だからこそ人間味がなくてペラペラした印象もあるんだけど……

主人公はとてもかわいらしいが、ホントにそれ以外はモテそうにないナイスなキャラクターばかり。その人の描き込みが出来ない分、ビジュアルのインパクトは絶大で、全員が愛らしい。このキャスティングセンスは絶妙だ。

いかにもボンクラ。


・過度なセンチメンタルのなさ

言ってしまえば『SUPER8』は誰がどう見ても『E.T.』と『未知との遭遇』と『宇宙戦争』のいいとこ取りであり、スピルバーグが製作に回っていることで、それがOKになってしまってるわけだが、ぶっちゃけこの手のストーリーは100万回くらい全世界で描かれてるわけで、新鮮味は一切ない。

ところがぼくはハッキリ言ってしまうとこの映画、『E.T.』や『A.I.』よりも好きである。

理由は至極単純で、過剰なセンチメンタル*5がないからだ。

自主映画製作に関わる主人公を取り巻いているキャラクターがいるが、その家庭環境などはひとりひとり深く描き込まれない。国民的な大ヒットマンガの『スラムダンク』でもキャプテンの赤木以外、誰ひとり家庭環境が一切出て来ないのと一緒で、*6、長期連載が約束されたマンガであれば、それは他の部分――――特出した特技や過去の回想を加えることでなんとか補えるのだが、二時間を切る映画でそれを盛り込むことはかなりキツい。上記のように説明を省いた映像が続き、フラッシュバックがないなら「余計に」である。

主人公と女の子以外の家族の描写があまりないのもさることながら、さらにその関係性はかなりあっさり描かれる。親と子がケンカしてもそこで深く分かり合えたり、考え方の違いが出るわけでもないし、普通は子供には子供の言い分があって、親には親の言い分があるわけなのだが、そこも細かく提示されるわけではない。当然ながらその関係性はこちらが想像するしかないわけだが、例えば、ケンカして家を飛び出したりしても、すぐに次のサプライズがやってきて、そこについて入り込ませてはくれない。

さらに全体的にキャラクターの心情に対しては俯瞰気味というか、悪く言えば上から目線というか、すべてにおいてそこはバッサリと切り捨ててあり、子供目線も親目線もへったくれもなく、心情を描くシーンにおいてはすべて「あと一歩!」なのである。

それ故に冷たい印象もあり、切って貼っただけの映画という風になってしまうのだろうが*7、逆にぼくはその過剰になりすぎない、いわゆる醒めた目線が大いに気に入ったのだった。観る年齢や親や子供といった立場もあるだろうが、やっぱり『SUPER8』はあくまでサンプリングムービーであり、それ以上でもそれ以下でもないというのが、ぼくの個人的な意見だ。

過剰に描くべきところを描かなかったことで2時間は切ってるわけだし、映画的な記憶を呼び起こさせ、それらに対する好き度を感じる作品という認識なので、その取捨選択はぼく自身はよかったと思っている。


・フレンドリーじゃない宇宙人

E.T.』や『未知との遭遇』を下敷きにしながら、この二本との決定的な違いは、宇宙人がまったく友好的ではないというところ。「GO HOME」であるというところは変わらないのだが、長い間人間に虐待された結果、宇宙人が人間を怨んでいるというのが、この作品最大の特徴で、わけもわからず攻め込んで来た『宇宙戦争』とも違い、さらに人間を食料にしているということも相まって、そこに明確な恐怖感がある。

確かにそこで著しくバランスを欠いているし、ラストに繋がらないのではないかとも思うが、実は『E.T.』もE.T.に出会うまでの描写はホラー映画と見紛うばかりであった。その演出を確実に受け継いでいるのが、『SUPER8』であり、さらにその宇宙人を怪獣のように扱ったのはゴジラ好きのエイブラムスとスピルバーグらしいアイデアだったと言える。


・エンドクレジットの8mmと「マイ・シャローナ」

映画は宇宙人が帰っていくところで、ブツっと終わり、そこに再びELOの“Don't bring me down”がかかる。ここで席を立つ人が続出していたのだが、実はこの映画エンドクレジット後にも仕掛けがあり、彼らが劇中で撮っていた8mmの映画が流れるのである*8。なんとも粋な演出で、ここでもまた涙を誘うのだが、さらにELOが終わった後でヒット曲の「マイ・シャローナ」がかかるのだ。

今となってはアメトーークのエンディング曲としておなじみだろうが*9、またこの底抜けに明るいロックナンバーが、映画を観終わった後に心地良い余韻を与えてくれる。歌の内容は「シャローナという女の子に恋したぜ!マ、マ、マ、マイシャローナ!」みたいなかるーい歌詞なのだが、一応主人公の行動とリンクするとは言え、あまりに軽い!だが、その軽さがまたなんとも言えず、ノリノリで映画館をでることになる。

実際ぼくはこの影響で、帰ってから延々この曲を聴くことになってしまった。


――――あとはデブ監督の姉ちゃんが妙にエロいのに、そのエロさがズレてるせいで、誰も姉ちゃんに欲情してないとか、その姉ちゃんに恋した現像屋の兄ちゃんがしょうもないとか、親父がいい感じで軍隊に捕まったおかげでプロット上の邪魔になってないとか、これから女の子助けるぞ!ってとこで360度パンして、そこが映像的に超かっこいいとか、レンズフレアフェチとして、光が屈折した感じの照明が連発されるとか――――他にも好きなところはたくさんあるんだが、それ全部書くとホントに長くなってしまうのでやめる。『ソーシャル・ネットワーク』や『インセプション』に続いて、ひとつの映画でふたつのエントリを書いてしまったわけだが、まぁ、それくらい好きな映画であるというところは察していただきたい。

とにかく久しぶりに観終わった人とあーだこーだ言いたくなる、そんな映画だった。ぼくはなんだかんだ言って全面支持派で、今年のベスト3には入ってくる映画でしたよ。あういぇ。


関連エントリ

ハッタリ大王の整理整頓された青春「Super 8」 - ナマニクさんが暇潰し 跡地
スーパー8/エンドロールまでの壮大な前フリ | 映画感想 * FRAGILE

ぼくが書いたこととはまるで正反対の意見。だが、これはこれで説得力があり、基本的に作品に対する見解は一緒だということが良く分かる。

*1:サビは“Shine A Little Love”

*2:タイトルからいろいろ察することは出来るとはいえ

*3:プロット上の仕掛けとして必要だとしても、観ててホントにイライラする。監督の演出通りに汲み取るとは!なんていい観客なんだ!

*4:魔女の宅急便』がそうであったように

*5:感情的な涙を誘うような部分

*6:家庭環境といったところで、赤木の家に行っても親は出て来ない。まぁ、あのマンガに至っては主人公の桜木の人となりさえもすべて隠されているという驚異的な設定なのだけれど

*7:ぼくが『スラムダンク』にそのような印象を持っている。たいへんおもしろいマンガだけど、試合シーンだけが一枚絵として気合い入っていて、それ以外は意外とスッカスカなのだ。その他は不良マンガなのかなんなのかバランスを著しく欠いているし、そもそもスポーツマンガなのに、全員が爽やかというのもぶつぶつ……

*8:しかもロメロオマージュ

*9:ぼくもそれで知ったクチである