っていうか『愛の渦』と基本は一緒『何者』

『何者』をAmazonプライムにて鑑賞。
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原作は直木賞を受賞した朝井リョウの同名小説。就活生たちが内定を取るまでの悪戦苦闘っぷりを瑞々しく描いた青春小説のような形式で進んでいくが、中盤から「内定が取れないものは人間失格」という概念が主人公たちを焦らせ、そのことによって見えない部分で人間関係がギクシャクしはじめ、最後の最後で主人公の「ある秘密」がバレてしまった結果、仲間だと思っていたあるひとりに心理的にジワジワと追いつめられていくという“就活ノワール”であり、『桐島、部活やめるってよ』同様、学生を主人公にしたミステリーという感じでとても楽しく読んだ。

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これを三浦大輔が監督することになったのだが、おもしろいもんでほとんど原作通りにことがはこばれていくにも関わらず、「ひとつの目的のために一室に集まった他人同士が見えない腹の内を上っ面な会話で探りあう」という基本プロットが三浦監督の代表作である『愛の渦』とほとんど一緒であり、あの映画からセックスを抜いて、登場人物を全員就活生にしたらこういう感じになるのは至極当然で監督の十八番ともいえる。企画・プロデュースに川村元気の名前があったので、もしかしたらその辺のことも鑑みて監督に原作を持っていった可能性もある。

原作では主人公の視点のみで描かれていくが、映画は真逆でむしろ主人公の心情や行動はほとんど描かれない、就活生を第三者の視点で見ているかのようであり、佐藤健は徹頭徹尾抑えた演技でもって、記号的なキャラクターとして存在するに留まり、逆に他の4人がいきいきと演じているのがおもしろい。TwitterをメインとしたSNSの映像表現や各部屋で性格や趣味、心情を表している美術、無機質でありながらもエモーショナルな中田ヤスタカの音楽も含め、表面上と内面はまるで違うんだということをちゃんと映画で表現できるすべてを使って演出しているのは特筆に値する。特にそれが爆発したのがラストであり、主人公が劇団に在籍したという部分と行動や心情がシンクロ。監督も演出家出身ということもあいまって、このシーンだけで原作超えができているのではないかと思った。

そもそも原作自体が、映画化を念頭においたような作品であり、映像不可能な感じでもないので、恐らく誰が撮ったとしてもそこそこなレヴェルに持っていけるのではないかと思う。それくらい話の骨格がよくできているということである。原作読んでる人は別に映画を観たところで、特段「これは映画史に残る大傑作だ!」ということもないだろうし、映画を観た人は原作を読んでも「映画と同じだね」という感想で終わるはず、そういう作品である。もちろんかなりよくできてておすすめだけれども。

何者 DVD 通常版

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