『TAJOMARU』って襲名するもんなのな


証言が食い違う事件をアメリカでは「ラショーモンケース」というらしい。

羅生門 [DVD]

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芥川龍之介の『藪の中』を原作にした黒澤明の『羅生門』は、原作の主題をわかりやすく、さらにエンターテインメントとして昇華することに成功した。平安時代に起こったある殺人事件を巡って、盗賊、殺された武士(いたこの力を借りて証言。うーん、スピリチュアル。)、武士の妻、事件を見ていた木こりとそれぞれが証言するのだが、その証言がびみょーに食い違っていくというお話。実際アメリカでは64年にポール・ニューマン主演でリメイクもされていて、しっかりクレジットにはAkira kurosawaの文字が並んでいる。ちなみに「真実はやぶの中」なんてのがあるが、これも『藪の中』が元になっているようだ。


それぞれの証言が食い違った事件はどういう顛末を迎えるのか?————映画はそれぞれの証言が食い違ったまま終わる。結局誰も本当の事をいっておらず、ミステリーとしてオチないなんて、じゃあ何がしたかったんだよ!って思う人もいるだろう。実は『羅生門』がやりたかったのは事件を明らかにすることではなくて、人間の本性を1つの殺人事件を通して描くということだった。


荒々しく怖そうな盗賊と誇り高き侍はそれそれ、ただの弱虫であることが分かり、美しくも高貴な女はただのアバズレビッチであったり————など、次第に本性があきらかになる。へっぴり腰で戦う二人。腰が抜けて、立つ事も出来なくなった侍は盗賊に「死にたくない」と懇願。盗賊は侍を殺し、女を再び犯そうとするが、あまりの疲労と緊張に妻を追いかけ回す気力もなく、妻はさっそうと現場を去っていく————


人間ってのはウソつきで、利己的で、嫉妬深くて、強欲で、自分勝手であるというのが映画の主題だ。自分が罪からちょっとでも逃れようと思えば、人間なんて些細なウソをつくし、自分に不利益な事はぜったいに言わない。これは事件に限らず、ありとあらゆるケースで見られることだ。実際、ニュースで「このように両者の言い分が見事に食い違ってますねぇ」というのを聞いたことがあるだろう。食品偽造や耐震偽装の時も、嘘つきまくりで、絶対にボロが出るのに、とりあえずその場しのぎのウソをみんなつく。お塩テンテーの時も、のりピーの時もそう、本当の事を知ってるのは本人だけなのだ————まぁ、これは前に『暴行』という映画の記事を書いた時のヤツを改訂したものなので、ある意味セルフカバーです、てへっ。


さて、前置きが長くなってしまったが、怒り心頭の『キラー・ヴァージンロード』の後、すぐに『TAJOMARU』を観た。『藪の中』の映画化だ。観た人ならもう分かってると思うが、内容は原作と別物である。


ただ、証言だらけの原作を映画用に変えるのはかまわないと思うが、一番許せないのは原作の主題を逆にしてしまったことだ。上記の「人格者に見える人も実のところウソをついていて、嫉妬と欲望がうずまいている」というのが、『TAJOMARU』では「人間って薄汚いように見えるけど、本当は良い人だよね!」になっているのである————は?


ぼくは芥川龍之介の魅力は人間のエゴイズムを主題にした作品が多いところだと思う(他にもちょーかっこいい文章とか好きなところはある)、つーか、それは普遍的なものであって、誰が読んでも共感したり、納得したりする。だからこそ、いままで読まれてきたんじゃないのか?


これは同性愛を削った『MW』の映画化と同じだ。「それ無くなったらダメじゃん!!」である。ストーリーを変えるのも、映像的に違うものにするのも構わない。ただ、その語り継がれてきた重要な部分を改悪するなんて、片腹痛いわ!たたっ斬ってくれる!!


つーわけで、小栗旬松方弘樹ショーケンはかっこいいものの、時代劇にしては衣装がサイバーだとか、照明が明るすぎるとか、野武士や盗賊が人を殺したり、ピーピー泣きわめいている女をレイプしなくてムカつくとか、でもレイプされる瞬間にシーンが切り替わったりとか、アレだけ品格のある家柄が盗人など引き取らないぞバカ!とか、血は出ないとか、地獄谷は全景を映さないとか、他には文句もたらふくあるわけだが、映像はなかなかスタイリッシュだし、ヒネリのあるプロットも————ええい!そんなのはもうどーでもいい!


『キラー・ヴァージンロード』の後だったので、さらに落ち込んだのだが、でも、昨日のエントリがすごくアクセス数とブクマ数を稼いでくれたので、救われた。こうなったら、破壊屋ならぬ、地雷屋として、これからもオレ、頑張って地雷撤去するよ!あういぇ(誤解しないでほしいのは、ぼくは、はなから映画をバカにしようと思って観てません。映画が好きだから、やっぱりスクリーンで観たいし、少なからずおもしろそうだとは思ってるわけです)。


こちらの方が、よっぽどおもしろそうだけどね。

映画『TAJOMARU』がスゴ過ぎる!——俺の邪悪なメモ
http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20090912/p1


手前みそながら関連エントリ

羅生門』のリメイク『暴行』——くりごはんが嫌い
http://d.hatena.ne.jp/katokitiz/20080408/1225636998


PS.あ、書くの忘れたが、やべきょうすけは『クローズ』と一緒であいかわらずおいしいところを持っていくよ!!