テレビ版に期待『後妻業の女』

『後妻業の女』をAmazonプライムにて鑑賞。
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資産家のジジイをだまくらかして公正証書遺言を作成し、殺すか、病気で死ぬまで待ち続け、その遺産を奪いとる後妻業についてのお話。

原作は黒川博行の『後妻業』。以前このブログにも感想を書いたので手短に済ますが、後妻業うんぬんのことはあまり関係なく、二転三転していくストーリーを被害者、調査者、加害者の視点で描いていく。黒川博行は軽妙洒脱な会話劇と展開で痛快なノワールを書く“なにわのレナード*1”だが、この『後妻業』はその手法を封印し、ドライで凶悪、そしてそれに伴う因果応報っぷりといい、読む者を地獄の底まで引っ張るようなドス黒い、これぞノワールな話に挑戦している。

その点、映画は原作とは正反対で、黒川博行が本来得意とする大阪の土着性を利用したレナード調の文体をそのまんま映像化したようなノリ。コメディとまではいわないが『ゲット・ショーティ』や『ビッグ・バウンス』のようなレナード原作映画が持つ独特なテンポとノリを再現していて、ある種、作家の資質をそのまんま映画にスライドさせている。黒川作品に慣れてる人からすれば「ほぅ、こう来たか」という感じである。

スタッフ、キャストともノリノリで大阪という土着性がそうさせてるのかもしれないが、大竹しのぶはそれこそ水を得た魚のごとく、縦横無尽に大海原を飛び跳ねながら泳ぎまくり、それに豊川悦司永瀬正敏尾野真千子なども乗じ、そこに“後妻業”とは何か?の説明もしっかりと挟み込み、ミステリーの要素も加え、犯罪者たちが追いつめられていく様子もちゃんと描いている。

ここまではエンターテインメントとして大変よく出来ていて、なんの不服もない。むしろ原作ファンとしてもそれ以外の人にとっても完璧と言ってもいいくらいだ。しかし、残念なことに映画が三分の二くらいまで進むとそれまであったノリが一気に衰え、同時にそのおもしろさもとてつもないスピードで消え失せていく。まるで完璧な犯罪だと思われた事件が破綻していくかのように。

まず、ジョーカーであるはずの大竹しのぶの息子…風間俊介のキャラクターがまったく機能しておらず、格段に知能指数が低く設定されている。で、彼のそのバカさ加減を他がカバーすれば良いのに、なぜか彼が出てきたことによって他のキャラクターもそれに合わせて知能指数が下がりはじめ、最終的になぜかドタバタコメディのようになってしまう。

当然、原作のようなドス黒い因果応報な終わり方もそれに合わせてなくなる。これは原作を知らずともあっけに取られるというか、ある種、おっぺけぺーというか、おっぱっぴーというか、そういうバヨエーン的なよくわからないオチになってて*2、それまでマジメにやってきたはずなのに、物語にたいしての収拾がつかなくなるというか、最後の最後で話を投げたかのようなそんな印象さえ受ける。

これは非常に惜しい。終わりよければすべてよしという言葉とは真逆であり、絵に書いたような竜頭蛇尾で、そりゃそんな四字熟語もできるわなと納得させられるようなそんな映画だ、なのであまりおすすめはしない。エロもさほどないし、強烈なバイオレンスもない。まぁこの映画のなかで殺されてしまう年代の方々のために作られたようなそんな感じなのだが、テレビ番組がそうであるように、超高齢化社会になってしまった今、映画もこういうタイプのものがこれから大量生産されるかもしれない。

ちなみについ先日、この『後妻業』がテレビドラマ化されることが決まった。ドラマ版というよりも原作の再映像化になるのだろうが、これにはおおいに期待している。楽しみだ。そして、早く映画のほうを忘れさせてほしい。

後妻業の女 Blu-ray豪華版

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後妻業 (文春文庫)

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*1:筆者命名

*2:書いててもよくわからないが