雪は白い、だからこそ何色にでも染まる『ミスミソウ』

ミスミソウ』をレンタルDVDで鑑賞。
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多少の粗さはあるものの、非常によく出来た作品だなと思った。

監督はそのタイトルと内容で超絶な賛否両論を巻き起こした『先生を流産させる会』の内藤瑛亮。処女作にして黒沢清北野武のような風格とセンスを見せつけていたが、今作でもそれはいかんなく発揮される。原作にかなり忠実な脚本でありながら、演出方法は完全に『先生を流産させる会』のアップデート版だと言っていいだろう。実際、この作品において担任はぞんざいに扱われているし、生徒も良識ある大人にはできないような残虐的な行為をする。まさに『ライチ☆光クラブ』同様、内藤監督の得意とする題材であるといえる*1

にも関わらず、運命とは皮肉なものであり、製作自体はかなりゴタゴタで、クランクインの一ヶ月前に前任の監督が降りたらしく、急遽内藤監督に白羽の矢が立ったというのがオチ。ちょっと準備期間がなさすぎるだろうと思いながらも原作のファンだったこともあって引き受けるはこびとなるが、当然原作者とのディスカッションもなく、役者のオーディションにも立ち合えず、さらにスタッフが決めたロケ地に赴くと、その場所が間違ってたり、合成カットの打ち合わせもないため、現場で「とりあえず緑のテープ巻いときゃなんとかなるっしょ」と『マッドマックス 怒りのデスロード』のメイキングを思い出しながら、その場のノリで撮影した。しかし、塚本晋也の『野火』同様、そういったトラブルを感じさせない……むしろ突貫作業だったことが信じられないような落ち着いたトーンになっているのは監督の才能とは別に現場を仕切る力量があるんだなと思った。

お話自体は都会から過疎化寸前の田舎に引っ越してきた女の子が、執拗かつ陰惨なイジメに遭い、あげく家族を皆殺しにされたことでブチ切れ、犯人をひとりひとり血祭りにあげていくという復讐譚。ハッキリ言ってサム・ペキンパーの『わらの犬』となんら変わらず、よく見聞きするような感じで、それこそ有象無象に派生した“わらの犬症候群”のひとつとして数えられてもおかしくないが、そのゴタゴタで作られたこととは別にとてつもなく分厚いレイヤーを何層も敷いたことで、それらとは一線を画す、重量感のある作品に仕上がった。

ひとつめのレイヤーは『わらの犬』の設定を“過疎化/集落化した日本のド田舎”に置き換えたこと。これによって「津山三十人殺し」や「山口連続殺人放火事件」を彷彿とさせ、まったく『わらの犬』であることを意識させず、日本ならではの土着感と異常性が加わり唯一無二な作品に昇華した。

ふたつめは学校を舞台にして、イジメの描写を『エレファント』よりも丹念にしたこと。これによって「コロンバイン高校乱射事件」の本質はどこにあったのか?に迫れた。マイケル・ムーア銃社会アメリカの国民性をテーマにあの事件を紐解いていったが、動機自体は単純にいじめられっこの復讐であり、作り手が無意識であったにせよ、あの事件の縮図としてもこの作品は機能している。

三つめは登場人物の大半が十代になったことで『バトル・ロワイアル』の“ちゃんとした”フォロワーになれたこと。これは原作のテイストがそのような感じなのだが『バトロワ』以降、理不尽なルールのなかで若者が殺し合うという作品がかなりつくられてきたなか、今までのレイヤーを敷いたことで、圧倒的な深みが加わり、それらを平成最後のタイミングで一気に墓場送りにできたことはうれしい誤算だった。

四つめは被害者側にもそれなりの理由があったということをしっかり描いたこと。原作では下巻において、かなりのページ数を割いているが、映画ではわかりやすく簡略化したことによって、『人妻集団暴行致死事件』のようなノワールに化けた。田舎に閉じ込められ、未来がなくなった若者が憂さを晴らすために群れて暴力をふるっていたという、彼らなりの動機があり、もちろん許されたことではないが、先ほども書いたようにそれが近年であっても陰惨な殺人事件になっているという事実を鑑みると、この作品で描かれたことはそこまでフィクションではない、未だに日本にある現状だ。だからこそ観てる側の価値観が逆転し、自身のモラルが破壊される仕組みになっているのである。

もちろん観ていてノイズになるような部分はある。あれだけの事件が数日にわたって起きているのに警察がほぼほぼ動いていないとか、担任と保護者の関係はどうなっているのか?とか、どの程度の規模の町なのか?とか、そもそも家族そのものが村八分にあっているのに、なぜすぐに仕事を辞めて引っ越さないのか?とか、娯楽がないわりにエアガンやボウガンはどこで買ったのか?とか、根本的にあそこまで学校って崩壊するものか?とか。

しかし、そういったノイズも含め、その緩さや余白の部分を観客が補完することにより、他の作品に比べ、圧倒的な余韻が残るのも事実。原作ではかなり人物に寄った構図で物語が紡がれていくが、映画は内藤監督らしく、ロングショットの長回しを多用し、雪が降り注いでいることを意識させる。当然、画面は真っ白であるが、白は何色にも染まるのだ。その白を各々の色で染めていく……そんなカルトムービー的なおもしろさがある。この映画は確かに血なまぐさく、モラルは崩壊しているが、真っ白であるがゆえに何もかもが正しく、そして美しい。

ミスミソウ [DVD]

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*1:といいながら『ライチ☆光クラブ』はマンガ版が大好きで映画は観てないのだけれど