剛、走る『日本で一番悪い奴ら』
『日本で一番悪い奴ら』をAmazonプライムにて鑑賞。
戦後の殺人事件のなかで最も“凶悪”と言われた事件を映画化した白石和彌監督が次に選んだのは日本警察史上最大の不祥事といわれた「稲葉事件」の映画化でその名も『日本で一番悪い奴ら』。非常に良いタイトルなのだが、実際日本で一番悪い奴らはあの『凶悪』の一味なのではないかという気もする。
誰がどう見てもクソ真面目で柔道一直線だった童貞が、その真面目さ故に悪い先輩の言葉を真に受けて、そのまんま悪の道へと突っ走り地獄の底まで堕ちていくというノワール。
まるで今村昌平が撮ったかのようなどっしりしたエクストリームな犯罪劇から一転、今作ではとてつもなくアッパーでハイなテンポで進む。和製『グッドフェローズ』と評されているようだが、ぼくは悪徳刑事がやりたい放題暴れまくるという意味で、崔洋一監督の『犬、走る』を彷彿とさせた。元々『犬、走る』は松田優作が企画した作品だったが、独自の狂気を宿した岸谷五朗に比べ、綾野剛はその松田優作を憑位させたかのような演技メソッドでとてつもない頂へ登り詰めたと言っていいだろう。『ロング・グッドバイ』でのテリー・レノックスの演技も素晴らしかったが、それ以来の好演であり、それこそ彼の演技だけでもずーっと観ていられるレヴェル。
『凶悪』でもかなり踏み込んだ演出をしていたが、その評判でさらに好きなことができるようになったのか、表現が格段にブラッシュアップ。品性下劣しかないような2時間15分であり、犯人を追ってるときにシートベルトをつけようとした主人公に「シートベルトして犯人を追う刑事がいるかよ!」とあえて言わせるなどコンプライアンスに中指追っ立てるシーンが連発され、セクハラや喫煙、もよおしファック、シャブ打ちなど、これぞ映画だ!と言いたくなること必至。むしろ小気味良い。
このご時世にこんな映画が観れるなんて驚いたというのが素直な感想だが、さらに白石監督はこの後『凶悪』のコンビで「佐世保小6女児同級生殺害事件」を下敷きにした『サニー/32』と『県警対組織暴力』のオマージュである『孤狼の血』を撮ることになる……うーむ、早く観たい……
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